文庫版が異例のヒット『百年の孤独』は日本で映画化されていた…命と引き換えに完成させた「演劇界の鬼才」

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『百年の孤独』に入れ込み、命を失った作家

 本年7月、単行本刊行から52年目にして初めて文庫化された、ガルシア=マルケス著『百年の孤独』(鼓直訳、新潮文庫)。発売からあっという間に完売し、全国の書店の店頭から消えた。その後増刷が相次ぎ、今では容易に入手できるようになったが、

「原著は1967年にコロンビアで刊行された、スペイン語の小説です。その奇想天外な展開に、世界中でベストセラーになりました。1982年には著者がノーベル文学賞を受賞しています。日本では1972年に邦訳が刊行されましたが、一度も文庫化されることなく、新装版や改訳版となって、単行本のまま、読まれつづけてきました」(ベテラン編集者)

 架空の村マコンドにおける、7世代、百年にわたる物語である。今回、半世紀ぶりに文庫になるとあって、「文庫となったその時には、世界が終わる」などという、わけのわからない都市伝説までが再び注目を集めた。

「本書を契機に、世界中でラテンアメリカ文学の大ブームが起きました。日本でも、大江健三郎さん、井上ひさしさん、池澤夏樹さん、さらに今回の文庫に解説を寄稿した筒井康隆さんなどが影響を受けています」

 池澤夏樹氏は、今回の文庫化にあたって、詳細な登場人物家系図と注釈を入れた「読み解き支援キット」を制作し、ネット上で公開した。

「たしかに多くの作家が、『百年の孤独』に影響を受けています。しかし、“影響を受けた”どころか、入れ込むあまり、命まで失ったひとがいます」

 と、意外な解説をしてくれるのは、70歳代の元演劇記者だ。

「それは、寺山修司さんです。寺山さんは、『百年の孤独』に入れ込むあまり、舞台化、映画化し、そのまま亡くなっていきました。晩年の彼は、まるで『百年の孤独』に取り憑かれたような日々でした」

 いったい、寺山修司が『百年の孤独』に取り憑かれた晩年とは、どういうものだったのだろうか。一連の過程を取材してきた、元演劇記者氏の回想を中心に綴る。

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