ジャパニーズウイスキーブームは一段落? 今後のカギを握る「クラフト蒸留所」と「グレーン」

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日本ならではのグレーンウイスキー、ブレンデッドウイスキーで市場を盛り上げてほしい

 そもそも、「グレーンウイスキー」とは何か。まず、世界敵な人気を誇るウイスキーに共通する要素として、蒸留酒であること/穀物を原料としていること/木製樽で貯蔵され、ある程度の期間、熟成されていること、の3つが挙げられる。その中で、モルト「大麦麦芽」のみを使って、ポットスチルと呼ばれる銅製の単式蒸留器で2~3回蒸留したのが「モルトウイスキー」であり、一つの蒸留所のみで蒸留されたモルトウイスキーが、近年のウイスキーブームを牽引している「シングルモルトウイスキー」だ。

 対して、大麦以外の穀物も使用し、一般的に連続式の蒸留機を用いて蒸留、これを熟成したものを「グレーンウイスキー」と言う。連続式蒸留機では短時間で効率的にアルコールを濃縮するためコストが抑えやすく、また、原材料の風味が残りにくいため、クリアでライトな酒質に仕上がる。このグレーンウイスキーを、香味は芳醇であるが高価なモルトウイスキーとブレンドしたものが、「ブレンデッドウイスキー」にあたる。

「現在、グレーンウイスキーを製造しているのは、前出の吉田電材蒸留所やSAKURAO DISTILLERYのほかに、嘉之助蒸留所など。これらの蒸留所が主体となって、比較的安価で製造出来るグレーンウイスキーを増産していくのはもちろん、蒸留所間の枠を越えて原料を供給し合い、ピュアな“ジャパニーズ・ブレンデッドウイスキー”を生み出して欲しいなと思うんです。

 海外では、古くから蒸留所やオーナー会社間での原酒交換がなされていましたが、日本では取り組まれてこなかった。でも、前出の三郎丸蒸留所と滋賀県の長濱蒸留所が、2021年に、日本で初めて原酒交換によるブレンデッドウイスキーを製品化するなど、やっと革新的な動きが見られ始めています。諸外国と比べても高いブレンド技術を持つ日本だからこそ、繊細な感性が反映され、期待以上においしい商品も生み出せるはず。いま勢いのあるクラフトウイスキー蒸留所同士が積極的に交流しあって、数年後には、世界に誇れる新商品が店頭にたくさん並んでいる。そんな未来を想像せずにはいられません」

 ウイスキー造りには膨大な初期投資や準備期間がかかるため、昨今に始まった企画が実を結ぶのは、早くて数年後のこと。

「10年以上にわたって続いたジャパニーズウイスキーブームも、いったんは落ち着いてしまうかもしれません。でも、『マッサン』で描かれた日本人のウイスキー作りにかける情熱は、形を変えつつも、確実に現代にも受け継がれています。酒屋やバーテンダーは地道に勉強を重ね、“真にいいジャパニーズウイスキー”を売っていかねばと改めて思いますし、“伝統”と“革新”を融合させた、次世代のジャパニーズウイスキーが市場をさらに活性化していくことに、大いに期待しています」

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 ちょうど10年前にスタートした朝ドラ「マッサン」。前編では、この10年間のジャパニーズウイスキーブームの光と影を紹介している。

(取材・文/篠宮明里)

倉島英昭(くらしま・ひであき)
東京駅八重洲地下街「リカーズハセガワ本店」店長。4代目マスター・オブ・ウイスキー。雑誌『ウイスキーガロア』テイスター、ウイスキーテイスティングクラブBLINDED BY FEAR ディレクター。また、ウイスキー文化研究所ウイスキースクールおよびカルチャースクール世界文化社セブンアカデミーウイスキーの講師も務める。

デイリー新潮編集部

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