ジャパニーズウイスキーブームは一段落? 今後のカギを握る「クラフト蒸留所」と「グレーン」

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全国のクラフト蒸溜所が大健闘。今後のジャパニーズウイスキー界を支えるカギは

 現在のウイスキー市場を支えるクラフトウイスキーだが、この言葉が日本で使われ始めたのは、2013年以降だという。一般的にクラフトウイスキー蒸留所とは、自社で本格的な製造設備を持ち、その地域に根付いた独自のウイスキーを原酒から作る取り組みをしている蒸留所を指すが、もともとクラフトウイスキーのムーブメントは1960年代にアメリカ西海岸にて始まり、1980年代に本格化した。

 日本における小規模ウイスキー蒸留所の先駆者とも言えるのは、2007年に創業したベンチャーウイスキーの「秩父蒸溜所」だ。肥土伊知郎氏が立ち上げた同社は2008年2月に生産を開始し、同時期に始まったウイスキー消費増の気運に乗り、「イチローズモルト」などは短期間での急成長を見せた。この成功を受け、各社もクラフトウイスキー作りに向けて動き出し、それが表面化したのが2015年から2016年頃にかけてだそう。

「この時期に『ガイアフロー静岡蒸溜所』『安積蒸留所』『厚岸蒸溜留所』『マルス津貫蒸溜所』をはじめとするクラフトウイスキー蒸留所の誕生が相次ぎ、その後も年々増えています。日本のウイスキー蒸留所の数は、2015年には大手も含めて10か所ほどであったのに対し、2024年は計画中のものも含めると100か所以上と、約10倍もの広がりを見せているんです」
 
 クラフトウイスキーは、その土地ならではの水質や気候、風味を生かし、それぞれ個性的な仕上がりとなっているのが特徴だ。注目の蒸留所を、倉島さんのコメントと共にいくつかピックアップする。

【厚岸蒸溜所(北海道)】
 樋田恵一氏が、「アイラモルトのようなウイスキーを作りたい」という思いを胸に創業。アイラ島に似た冷涼で湿潤な気候をもち、牡蠣がとれる厚岸町にて2016年から生産を開始した。スコットランドの伝統的な製法を使い、スモーキーでピートの効いた独特の風味を持つウイスキーにはファンも多く、「厚岸」シリーズはISCを始めとする国際的なコンペティションで金賞を受賞。

「『厚岸』は問い合わせも多く、かなりの人気ですね。そのため入荷の際には抽選販売を行うのですが、webではなくハガキでの応募に限定しているにも関わらず、入荷数を大幅に上回る枚数が届きます。地産地消にこだわり、すべての原料を地元で賄うウイスキーを作ろうとしていて、今後の展開も楽しみです。個人的には、『秩父蒸溜所』とともに、ジャパニーズウイスキー界を引っ張っていく両巨頭となりうる存在なのではと思っています」

【江井ヶ嶋蒸留所(兵庫県)】
 清酒「神鷹」の醸造元として有名で、親会社・江井ヶ嶋の創業はなんと江戸時代の1679年。山梨県にワイナリーも持つ。代表ウイスキーとなる「あかし」は、蒸留所が明石海峡に面していることから名づけられた。近年のウイスキーブームで生産量を大きく増やし、シングルモルトの製造にも力を入れている。

「ここ数年の『あかし』は、とにかく味がよくなっていると感じます。決して派手ではない風味ですが、しっかりしていて味わい深い。以前に飲んだことがある方にも、改めて近年ものを飲んでみることをおすすめしたいですね」

【尾鈴山蒸留所(宮崎県)】
「百年の孤独」など焼酎を作る黒木本店が設立し、2019年にウイスキー作りを開始。自前の畑を持ち、そこで育てた「はるか二条」「はるしずく」などの大麦を原料に使っている。2023年には3年熟成の「OSUZU MALT」が発売され、好評を博した。

「OSUZU MALTはまだ若いですが、一度口にすると何杯も飲みたくなるような不思議な魔力があります(笑)。今後の展開が楽しみだし、熟成年数が短いウイスキーだからと言って飲まないのはもったいないことだと、改めて思わせてくれたウイスキーです」

【SAKURAO DISTILLERY(広島県)】
広島県が誇る世界遺産・宮島の対岸に位置し、2017年にオープンした。ウイスキーのほかにジンも製造し、広島産のレモンやユズ、ヒノキなどを使って蒸留。2023年に「ブレンデッドジャパニーズウイスキー戸河内」をリニューアルしたほか、代表ブランド「桜尾」シリーズも根強い人気を誇る。

「『戸河内』に、トンネルの中で熟成させた原酒を使う珍しい蒸留所です。トンネルの両入口から外気を取り入れるため、周囲の自然環境が生かされています。『桜尾』はバランスに優れ、旨味がしっかり凝縮されたような風味があり飲みやすく、シングルモルトが6000円台ほどとお手頃なので、お客様にもお勧めしやすいです」

【吉田電材蒸留所(新潟県)】
産業機器を手がける吉田電材工業が2022年から稼働させており、クラフト規模では日本初のグレーンウイスキー専門蒸留所である。仕込みには荒川の地下水を、原料には国産のデントコーンや大麦麦芽を使用。

「バーボンタイプのグレーンウイスキーを作っており、大きな期待をしています。私は、今後のジャパニーズウイスキー産業のカギを握るのは、まさにグレーンウイスキーだと考えているんです」

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