「マッサン」放送から10年、ブームがジャパニーズウイスキーにもたらした影響は 市場に起きた大変化
「山崎18年」は10万円以上、「響30年」は90万円!? 価格高騰が加速するワケ
このブームに乗っていたのは、当然、倉島さんの店だけではないだろう。全国の酒屋が仕入れ数を増やす中、ジャパニーズウイスキーは供給不足に陥った。
「当時は、長期熟成の製品もいくつかは店頭に並べられていました。例えば余市20年という製品は、当時2万円前後で販売させていただいておりました。その後ほどなくして、そのような長期熟成ウイスキーの在庫は市場からなくなりました。ご存じのように、ウイスキーはすぐには製品化出来ないため、一気に流通を増やせるわけではありません。あまり売れてなかった時代に減産していたこともあると思います。その後売り場に並ぶのは、NAS(No Age Statement)といって、年数表記のない製品が中心になっていきました。現在でも供給が間に合っていない製品も多く、それがジャパニーズウイスキーの大きな価格高騰を招いています」
倉島さんの言うとおり、2014年当時は市場価格が約1万5000円ほどだったサントリーの「山崎18年」は現在、その価格が10倍ほど上昇し、10万円以上で取引きされることも珍しくない。同様に、サントリーの「響」やニッカの「竹鶴ピュアモルト」「余市」シリーズも、その希少性から価格が急上昇。熟成ものや、限定ボトルをはじめとする“プレミアムウイスキー”は、一種の投資商品としても扱われるようになった。
最近では、ノンエイジの『山崎』に2万円弱、『山崎12年』は4万円ほどの値がついていることも珍しくない。中には、サントリーの『響30年』が90万円弱で売られていることも。数量限定モデルや生産終了商品も価格が跳ね上がっており、海外オークションでは、すでに閉鎖された『軽井沢蒸留所』で作られた『軽井沢1960年』が日本円にして約5600万円で落札された。
また、ウイスキーファンからも人気が高い『ベンチャーウイスキー』が手がけた『イチローズモルト』のフルカードシリーズ(それぞれ異なる樽で熟成され、ラベルにトランプの絵柄がデザインされたウイスキーの54本セット)は香港の競売にて1億円近い価格で落札されるなど、市場で手に入らない商品を求めて、世界中のマニアが躍起になっている。
“ジャパニーズウイスキーもどき”に警鐘、日本市場に求められることは
このように、国内外での需要が高まる一方で、新たな問題も生まれているという。
「日本では、2021年に日本洋酒酒造組合がジャパニーズウイスキーの表示に関する基準を発表し、例えば、糖化・発酵・蒸留は日本の蒸留所で行う、熟成については700リットル以下の木製樽を用いて国内で3年以上は貯蔵するなど、産地や製法についての規定が明確になりました。ラベル表記は“ジャパニーズウイスキー”で統一され、要件を満たしていない場合には、日本を想起させる地名や人名、国旗等を表示しないともされています。
しかし、組合に属さない企業はこれを守る必要もありませんし、罰則などももちろんありません。海外などでは、焼酎のような製品がジャパニーズウイスキーとして売られていることもあると聞きます。ほとんどが輸入原酒で構成されているようなブレンデッドウイスキーが、お店によっては“100%ピュアなジャパニーズウイスキー”として認識されていたりするんですよね。海外からのお客様などで、いわゆる純粋な日本産の“ジャパニーズウイスキー”を求めていらしているのに、十分な説明も受けられず、そういった商品を買ってしまう方もいるとのこと。ですから“お酒のプロ”として店頭に立つ以上、正しい知識を持ってきちんと説明させていただくことが使命だと思っています。
海外産のウイスキー原酒を使って、日本の技術力と感性で、ブレンデッドウイスキーを造ることは素晴らしいと思います。日本が造るワールドブレンデッドウイスキーは美味しいものばかりです。せっかく築いてきた日本のウイスキーのブランド力を保つためにも、我々のようなウイスキーを専門に扱う酒販店のスタッフも、知識をブラッシュアップしたり、努力を続けなければいけないのではないかと思います」
空前のジャパニーズウイスキーブームがもたらした光と影。後編では、ジャパニーズウイスキーが海外でも広く愛される理由や、勢いを増すクラフト蒸留所の発展、ジャパニーズウイスキーの展望に焦点を当て、深堀りしていく。
(取材・文/篠宮明里)