ヒズボラ攻撃の口火を切った「ポケベル爆弾」 イスラエルのダミー企業が製造・販売の衝撃…専門家は「歴史に残る驚異的な秘密工作」

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ヒズボラにポケベルを販売

 ギリシア軍がトロイの木馬に兵士を隠したように、イスラエルはポケベルやトランシーバーに爆弾を隠した──という意味なのだろう。

「ニューヨーク・タイムズの記事によると、ヒズボラがハッキング対策のためポケベルを必要としていたことをイスラエル側は把握。そのためハンガリーを拠点に『BACコンサルティング』という会社を設立し、国際的なポケベルの製造・販売を行うという触れ込みで業務をスタートさせました。しかし実態はペーパーカンパニーで、BAC社にはイスラエルの工作機関員が出入りし、彼らの身元を隠すため他に少なくとも2つのペーパーカンパニーが設立されました。そしてヒズボラを顧客としてポケベルを販売したのですが、その電池には高性能爆薬であるペンスリットが巧妙に仕込まれていたそうです。ポケベルは2022年の夏から少しずつレバノンに出荷され、今年に入って大量に納品されています」(同・黒井氏)

 記事によるとBAC社はカモフラージュのため、一般の顧客にもポケベルを販売していたという。だが、同社にとって本当に重要な、唯一とさえ言える販売先はヒズボラだったのだ。

 皮肉な話だが、ヒズボラがポケベルを導入しようとした判断は正しかった。“ローテク”のメリットを最大限に活用できるはずだったのだ。

誰がポケベル導入を決めたのか?

「スマホは非常に高性能な通信機器ですから、ハッキングに成功すれば膨大かつ詳細なデータを盗みとることができます。メール履歴や住所録、GPS位置情報もとれますし、カメラやマイクを遠隔操作で起動することも可能です。一方のポケベルは位置情報を把握する機能を持っていませんし、写真や動画を撮影することも、メンバー同士で通話することもできません。あえてローテクのポケベルを活用すれば、情報漏洩のリスクを最小限に減少できたはずなのです」(同・黒井氏)

 ヒズボラがローテクのメリットを享受することは許さない──そう判断したイスラエルは逆手を取って爆発物が含まれたポケベルをヒズボラに売りつけたわけだ。同じ手口でトランシーバーもヒズボラに“納入”した可能性は高い。

「となると『ヒズボラがポケベルを導入しようという意思決定さえも、イスラエル側が仕組んだのではないか』という疑問が浮かびますが、その可能性は現時点で否定できません。まさにスパイ小説を超える虚々実々の駆け引きが繰り広げられていたのではないでしょうか」(同・黒井氏)

諜報の歴史に残る作戦

 どこの国でポケベルやトランシーバーを製造していたかは不明だとしても、少なくとも設計はイスラエルの技術者が担当したと考えるのが妥当だという。

「私も長年、世界の情報機関をウォッチしていますが、これほど長期間の入念な準備を行い、圧倒的な衝撃を世界に与えた破壊工作は過去に記憶がありません。イスラエルのポケベル攻撃が人道的に許されるかという問題はさておき、秘密工作の歴史に残る出来事だったのは間違いないでしょう」(同・黒井氏)

 ニューヨーク・タイムズの記事によると、火曜日の午後3時半過ぎ、レバノンでポケベルが鳴り始めたという。その数秒後、レバノン全土の道路、商店、家庭で爆発音が響き、苦痛とパニックによる悲鳴が後に続いた──。こうして入念な破壊工作は成功を収めたのだ。

デイリー新潮編集部

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