「日本人は劣等民族」以外にもあるジャーナリストの「問題発言」

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ナチスばりの「劣等民族」というレッテル貼り

 問題発言によって注目された人物が、過去の発言が発掘されてさらに批判を浴びる――これまでにもよく見た光景だが、目下、注目を集めているのがジャーナリストの青木理(おさむ)氏である。

 きっかけになったのは同じくジャーナリストの津田大介氏との対談動画での発言。津田氏が「なぜ人々は自民党に(票を)入れ続けるのか?」というテーマでの講演を予定している、と話したのに対して、青木氏が発した一言、「ひとことで終わりそうじゃない?『劣等民族』だからって」が猛反発を浴びているのだ。

 この発言が問題視されるポイントはいくつかあるだろう。

 まず、「劣等民族」という言葉そのものが、ナチスがユダヤ人を弾圧する際に用いたものであり、軽々しく使うべきではない、という意見がある。

 さらに青木氏の発言を素直に読めば「自民党に投票を続けている人が多数を占める日本人は劣った民族である」ということになる。その場合、いつからの話なのか。この数年のトレンドを言いたいのか、あるいは戦後から今日までを指すのか。いずれにしてもなぜ自民党に入れ続けることが「劣等」とつながるのか。万一そうだとして、青木氏は別の階級に入るということなのか。疑問は尽きない。

 こうしたことから、この発言から差別意識や選民思想を感じた人が多く、抗議の声を上げているというわけだ。

 その余波で、ネット上にある青木氏の過去の問題発言も注目を集めている。別のジャーナリストとの対談で青木氏は高市早苗氏について「口裂け女」と表現。また舛添要一氏と片山さつき氏の夫婦時代の営みに関して言及していたことも判明するなど、人権を重視すべきジャーナリストとは思えぬ物言いから、なかなか苦しい立場に追い込まれているようだ。

 もともと青木氏は政権与党に対してはかなり厳しい物言いをすることで有名。発言に関して本人からのコメントはまだ無いようだが、問題提起をするのはジャーナリストの務めなので、この騒動もまた青木氏としては本望だろうか。

 戦後の政治家、実業家、作家らの問題発言を集めた『問題発言』(今村守之著)の中には、青木氏の「先輩」ともいえる評論家やジャーナリストの発言も多数収録されている。以下、同書をもとにいくつかピックアップしてみよう。

ビートルズは「エレキのサル」

「エレキ・モンキーというものは騒々しいばかりで、人類進歩の邪魔になる」――これは人気テレビ番組「時事放談」(1966年5月22日放送)で飛び出した発言。出演していたのは、元日本経済新聞社社長の小汀利得(おばまとしえ)氏と、元朝日新聞社編集局長の細川隆元(りゅうげん)氏だ。

 彼らの言う「エレキ・モンキー」とは来日を翌月に控えていたザ・ビートルズのことである。あんなものはエレキギターを弾くサルだ、と言い放っていたのだ。よほど憎かったのか、さらにここでは紹介できない放送禁止用語を交えてビートルズを批判。コンサートは日本武道館ではなく「夢の島でやれ!」とも言っていたという。

 さすがにこれらの問題発言には日本中から抗議の電話や手紙がテレビ局に殺到。放送した東京放送(TBS)は公演直前に小汀、細川両氏とファンとの討論番組を企画して、事態の収拾を図った。一見無茶苦茶な小汀らの発言だが、こうしたスタンスは当時珍しくなかったようだ。

「GSブームの前夜、ロックは『不良の音楽』だった。一部のジャーナリズムは『アンチ・ビートルズ』の姿勢を取り、『ビートルズなんか殺しちゃえ』「ビートルズ・ゴー・ホーム!』などの中傷記事を書き、武道館周辺にも『青少年を不良化するビートルズを叩き出せ』というヒステリックな看板が立てられたという」(『問題発言』より。以下同)

筑紫哲也氏の問題発言

 細川氏らとは異なり、おそらくは青木氏も敬意を表していると推察される大先輩、筑紫哲也氏もいくつかの問題発言で波紋を呼んでいる。1977年11月6日、テレビ朝日の「さて今週は」という番組で筑紫氏(当時、朝日新聞社外報部デスク)は次のようにコメントした。

「そのことと絡めて井上陽水の歌まで否定する一部の意見は間違っている」

 この2カ月前、井上陽水は大麻所持容疑で逮捕されていた。いまでも薬物の所持、使用に対して日本の世論やメディアはかなり厳しいのだが、当時は今の比ではない。ここに筑紫氏は違和感を抱いたのだ。

「メディアの異常なバッシング、特に、自分が働く『朝日』が井上の音楽を『麻薬の上に築かれた“砂上の楼閣”』と断じたことが、筑紫の発言を生んだのではないか。同番組でもレギュラーの出演者と論争になった。その同社論説委員は、『君が何を言おうと、私の娘にはそんなものはやってもらいたくない』と筑紫を睨(にら)みつけた」(同)

 筑紫氏の主張は今ならば問題発言とはされないかもしれない。「作品に罪はない」という意見は比較的広く受け入れられているからだ。もっとも、筑紫氏はその後、より深刻な問題発言も残している。

「1995年の阪神・淡路大震災の後、筑紫は被災地を『温泉に湯煙が上がっているかのよう』と喩(たと)えて、顰蹙(ひんしゅく)を買った」(同)

拉致被害者を「死んでいる」

 やはりテレビでのコメントが物議を醸したのは田原総一朗氏である。2009年4月25日の「朝まで生テレビ!」での次の発言だ。

「外務省も生きていないことは分かっているわけ」

 背景と発言をもう少し丁寧に見てみよう。この日のテーマは「激論! 日本の安全保障と外交」。北朝鮮による拉致事件に触れたなかで、田原氏は次のように発言した。

「横田めぐみさんと有本恵子さんは生きている前提でやってるわけ。ところが、北朝鮮は繰り返し生きてないと言ってるわけ。で、外務省も生きていないことは分かっているわけ(後略)」

 そして、その前提を崩すと、政治家たちから「コテンパンにやられる」といった解説も付け加えた。

 この発言に対して北朝鮮による拉致被害者の家族会と支援団体「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(救う会)は5月11日、横田さんや有本さんの安否を巡り、テレビ番組で根拠のない発言をしたとして、田原氏とテレビ朝日社長に抗議文書を送付した。

「その後田原は謝罪したが、さらに有本の両親は7月『精神的苦痛を受けた』として、慰謝料1000万円の訴訟に踏み切る。すると田原は『(横田、有本両名が)死んでいると証言した外務省高官の録音テープを公開してもいい』と述べる」(同)

 裁判では証拠とするテープの扱いも争点となったが、結局、田原氏が100万円を支払うことで決着した。

 ここまでに見たジャーナリストの「問題発言」の共通点は、活字メディアではなくテレビ(青木氏の場合はネット動画)におけるものだということだ。さすがに自分で書く時にはもう少し慎重になるのだろうが、フィールドが異なると急にウカツさが増して、居酒屋で知り合いと喋っているノリが出てくるのかもしれない。

 抗議側との討論、謝罪、賠償と問題発言の収拾方法はさまざま。今回の青木氏の場合はどのように収束するのだろうか。

デイリー新潮編集部

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