インドはなぜ「次の中国」になれないのか 停電、水害、環境汚染…モディ首相の求心力も低下

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停電、浸水、水不足、環境汚染

 インフラの脆弱性も頭の痛い問題だ。

 電力インフラ全体が未整備なインドではいまだに突然の停電が起きる。安定した電力の確保には原子力発電の拡大が不可欠だが、インドの総発電量に占める原子力の比率は2%未満だ。インド政府は民間の協力を得て導入の拡大を図ろうとしている(9月14日付日本経済新聞)ものの、前途遼遠と言わざるを得ない。

 豪雨災害も増加の一途だ。雨季(モンスーン)中の9月14日、文化遺産のタージマハルでは庭園の一部が大雨で浸水した。7月末には南部ケララ州の著名な観光地でも集中豪雨による土砂崩れが発生している。

 一方、深刻な水不足も発生しており、経済活動に悪影響を及ぼし始めている。

 有数のビジネス都市バンガロールでは、3月に水不足で企業活動全般に支障をきたす事態が発生した。米格付け企業のムーディーズ・インベストメント・サービスは6月、水不足がインドの格付けに悪影響を及ぼす可能性があるという警告を発している。

 水質汚染も目を覆うばかりの状況だ。モディ氏は議員に選出された際に「ガンジス川の浄化」を公約に掲げたが、一向に改善されていない。

 都市廃棄物の問題も日に日に悪化している。英リーズ大学の研究チームは9月5日、環境中に廃棄されたプラスチックごみはインドが世界最大で930万トン(2020年時点)との分析結果を発表した。

 またインド当局の推計によれば、毎日排出されている17万トンのゴミのうち適正に処分されているのは3分の2に過ぎず、残りは不法投棄されている。

中国との関係と連立政権…モディ氏の求心力は

 国内の懸案事項に加え、中国との関係改善も焦眉の急だ。

 インドの長期的な発展にはグローバルな供給網と一体になる必要があるが、その際、中国経済との連携強化は避けて通れない。だが、2020年5月にヒマラヤ山脈の国境沿いで衝突して以来、両国の関係は緊張状態が続いている。

 これが災いして、電気自動車(EV)や半導体、人工知能(AI)などの分野での資本・技術・人材の交流は滞っているものの、インド政府はここに来て緊張緩和に動き出した。

 ジャイシャンカル外相は9月10日、「中国からの投資に門戸を閉ざしていない」と発言した。また産業界の働きかけを受け、政府は中国人へのビザ発給を緩和し始めている(9月11日付ロイター)。

 だが、この動きが続く保証はないと言わざるを得ない。

 モディ氏は6月に3期目の政権樹立に成功したが、初めて体験する連立政権の運営に戸惑っている。連立する政党の反対で重要政策の撤回を余儀なくされるなど、求心力の低下も懸念事項だ。過半数の議席を確保するために連立した地域政党ジャナタ・ダル(統一派)の地盤である東部ビハール州は、インドでも貧しい地域で低カースト民が多い。このため、統一派は保護主義的な傾向が強いと言われている。

「内憂外患」を抱えるインドが「第2の中国」になるのは、現段階では非常に難しいのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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