次から次へと人物が出てきて…主題はナニ? ドラマ「錦糸町パラダイス」は“観る者しだい”

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 総武線沿線の千葉県民にとって、錦糸町は最も近い都会で、雑多な歓楽街だった。サウナとパチンコとラブホと映画館と場外馬券売場があり、東欧系の女性が働く店も多く、ダーク&アダルトな印象があった。が、東京メトロ半蔵門線が通って、一気に街の印象が変わった。「渋谷まで一本」でこんなに変わるのか(そもそも新宿まで一本なのに、それは売りにはならんのね)。若い頃にうっすらなじみのあった錦糸町が舞台と聞いて期待しちゃった「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」の話を書く。

 賀来賢人が営む「整理整頓」は錦糸町にある。個人宅の清掃から、廃業する会社や閉める店舗の後片付け、廃棄処分まで請け負う掃除屋だ。賀来はプロバスケットボール選手の夢を諦め、9年前にこの家業を継いだ。自分が投げたボールを取ろうとした親友の柄本時生が事故に遭い、車椅子生活になったことに責任を感じて、柄本とお調子者の後輩・落合モトキを誘った経緯がある。仲良し3人組のテイで今に至るが、本心は胸の奥にしまったまま。ふむふむ。そこまではOK。説明ゼリフがほぼないことは自然体でいい。地上波ドラマは長広舌の解説ゼリフが多過ぎる。分かりやすさを求めるあまりうそ臭くなるのが常なので、そこは評価したい。

 が、次から次へと人物が出てきて、その人々の事情や感情がどんどこ流れ込んでくるので、サザエさんのごとく「んがッんぐ?」とのどに詰まりかける。

 ではどんな人が出てくるのか。いじめ・セクハラの加害者や不正を働いた人の悪事を暴くQRコード付きのビラを貼って、社会的制裁を加えるルポライター(岡田将生)。補助金の不正受給が発覚した若手起業家(浅香航大)、若手育成も家庭運営も失敗して、自暴自棄の映像会社社長(今井隆文)と、彼を尊敬していたが希望を抱けずに壊れた若手(松岡広大)もいる。母親が不法滞在で強制送還される同級生(矢野あゆみ)や入管勤務で元バックパッカーの同級生(森岡龍)もいる。中学生の娘がいじめを苦に自殺した過去がある夫婦(板尾創路・菜葉菜)、いじめた側の女子(山下リオ)もいる。地元ラジオのDJ(光石研・濱田マリ)が投稿を読むテイで各々のエピソードにさらっと絡むこともあるが、全体を俯瞰するというわけでもない。

 俳優発のオリジナル作品に共鳴した手練れの役者がそろっているので興味はあるのだが、個々の事案が刹那的というか表層だけに見えてしまう。令和社会の世知辛い断片がちりばめられてはいるのだが、主軸というか、主題は何なのかをずっと考え続けるハメに。「善悪表裏一体」とか「責任の所在」かと思ったが、駄菓子屋のまっさん(星田英利)が江戸時代から生きているという奇譚が投入されて、また悩み始めてしまった……。人間の浅はかさとか、無常観みたいなことかなぁ。

 錦糸町であることの必然性、パラダイスの解釈、言葉足らずの男性たちの行く末……観る者にそしゃくと自分なりの解答を要求する、そういう意味で稀有(けう)な作品だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年9月26日号掲載

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