大学時代に観た映画で「特殊な趣味」に目覚め…44歳夫は劣等感を抱き続けた 隠されていた出生の秘密

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突然の両親の離婚、そして出生の秘密も明らかに

 そうこうしているうちに両親が離婚した。晴天の霹靂だった。特に仲がいいというわけではなかったが、両親が争っているのを見たこともなかった。

「兄が知らせてくれたんです。あわてふためいて、どうしてとつぶやく僕に、兄は『おまえももう大人だから、真実を知ったほうがいいと思う』と、僕が父親の本当の子ではないと急に言った。親の離婚と、僕が父の子ではないこと、両方が重なって何がなんだかわからなかった」

 結局、彼は母親が浮気してできた子だった。父はそれを知りながら受け入れた。そして実子として育てたのだ。

「悩んだけど、父と連絡をとり、DNA鑑定をしました。20年くらい前だったから、かなり高額でしたが真実を確かめたかった。案の定、親子関係はありませんでした。ショックではあったけど、実子ではないということより、それなのに僕をちゃんと大学まで出してくれたことにたいして父には感謝しました。一方で、母はずいぶん面の皮が厚いなと衝撃も受けた。父は『もういいんだ、そのことは』と言っていたけど、そういうことが積もり積もって離婚になったわけで……。僕のせいなのかとも悩みました」

 だが離婚理由はまったく違っていた。母は晴也さんの父親とはまったくつながっていなかったが、10年来の恋人がいたのだ。彼のほうの離婚が成立したために自身も離婚を切り出したらしい。

「ちょっと変わったところのある母親でしたね。だれに何を言われても平気、マイペースでマイウェイという感じ。だからほぼ放任で育てられたようなものでした。大事なことは父が教えてくれたと僕は思ってる」

 父に同情した。だが1年後、その父も再婚し、彼は両親から裏切られたような気持ちになった。親なんて勝手なものだとも思ったが、それ以前にあきらめの気持ちのほうが強かったのは、30歳間近という年齢のせいだったのかもしれない。

結婚式で口にしたかった言葉

 親と自分の人生は別物。その言葉を胸に、彼は社会人としてまじめに生活を続けた。そして友人の紹介で出会った、同い年の麻由美さんと30歳のときに結婚した。

「簡素ではあったけど結婚式を挙げました。まだ独身の兄と、離婚した両親が揃っていたけどなんだか僕は空虚な気持ちで、きれいごとを並べたスピーチを聞いていました」

 通常、新郎新婦は両親への言葉以外は話さないものだが、彼は終盤、突然マイクを握った。いてもたってもいられなくなったのだという。

「うちの親はこうやって並んでいるけど、最近、離婚したばかりです。僕は母親が浮気してできた子で、と言おうと思ったんです。だけど言えなかった。今日はありがとう、途中だけどどうしてもみなさんにお礼を言いたくなってと取り繕ってマイクを返しました。情けない男です、僕は」

 妻となった麻由美さんに両親の離婚は話していたが、「親子の秘密」は話せないままだった。

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【後編】では、自らの欲望と向き合い始めた晴也さんの振る舞いを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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