「阿部定」はどこへ消えた…66歳の時「ショセン私は駄目な女」の書置きを残し失踪、住民票は削除、死亡届なしの謎を追う

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最後の住所は台東区

 戸籍の上では、阿部定はまだ生きている。

 最後の住所は、台東区竜泉2丁目。おにぎり屋「若竹」の番地である。昭和45年に住民票が職権消除されたまま、「以下余白」となっているという。職権消除とは、本人が記載地に住んでいないことが確認されたため、行政側が職権で住民票を削除することをいう。

 本人は住民票を移動させずに、どこかへ行ってしまった。だが、死亡届は出ていない。つまり阿部定は、今話題になっている所在不明高齢者の1人なのではないか? 年齢的にも、その世代と重なり合う。

 台東区役所を訪ねると、福祉部高齢福祉課の平野穣課長はこう言った。

「現在、台東区では所在不明の高齢者はゼロなんです」

 え、ゼロですか?

「はい。住民票に記載されている人たちについては、すべて所在を把握しています」

 つまり、住民票が職権消除されている場合は、そもそも所在不明者としてカウントされないのですか?

「まあ、そういうことですね」

 では、阿部定も?

「個人的なケースはお答えできませんが、職権消除されているとすれば、そういうことになりますね」

 役所の所在不明者にもカウントされないとすれば、いったいその存在はどうなるのか。もしどこかで死んでいれば、身元不明死体、いわゆる“行旅死亡人”として処理されていることになる。では、まだ生きているとすれば?

 現行の制度の中では、“所在不明高齢者にもなれない”阿部定。彼女は、役所の記録の隙間からこぼれ落ちるように、ふっつりと、姿を消したままなのだ。

 ***

 66歳で忽然と姿を消した阿部定。第2回【阿部定の素顔 まるでどこかのスター、三橋美智也のファンで後援会にも、気まぐれな人…どんな晩年を過ごしたのだろうか】では、近所の住民や関係者など、生前の阿部定を知る人物たちがその人となりを証言する。

上條昌史(かみじょうまさし)
ノンフィクション・ライター。1961年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退。編集プロダクションを経てフリーに。事件、政治、ビジネスなど幅広い分野で執筆活動を行う。共著に『殺人者はそこにいる』など。

デイリー新潮編集部

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