武士が刀を抜きすぎ…「SHOGUN 将軍」が描く日本はリアルではない 褒めるだけのメディアの罪

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日本人にとって大きな励みになる

 これは凄まじい快挙だと思います。映画のアカデミー賞、音楽のグラミー賞、演劇のトニー賞とならぶアメリカのエンターテインメント賞であるエミー賞で、真田広之さんがプロデュース兼主演を務めた『SHOGUN 将軍』が、作品賞をはじめ18部門を制したのです。

 時代は関ヶ原合戦の前夜。徳川家康をモデルにした武将の吉井虎永と、その家臣になったイギリス人航海士の按針、そして2人の運命のカギを握るキリシタン女性で、細川ガラシャをモデルにした戸田鞠子。彼らを中心に陰謀と策略が渦巻くスペクタクル・ドラマで、虎永を演じた真田さんは主演男優賞に、鞠子を演じたニュージーランド生まれで東京育ちのアンナ・サワイさんも主演女優賞に輝きました。

 製作費が2億5,000万ドル、つまり日本円で350億円もかけられていた、という事実にも驚かされます。全10話なので、1話あたりに日本映画の平均製作費の10倍にあたる35億円もかけていたわけで、ここ30年余り、日本が経済成長でアメリカに突き放されてきたという事実を、あらためて突きつけられた感があります。

 しかし、一方で、セリフの大半が日本語というドラマに、それほど巨額の制作費が注ぎ込まれ、結果としてこれだけ評価されたという事実には、日本人として感慨深いものがあります。日本も捨てたものではない、これを機に、日本発の文化が力を持ってほしいと切に願いますし、なにより、次代の日本人にとって大きな励みと自信になります。

 ただ、それほどの快挙で、影響も大きいだけに、指摘しておきたいこともあるのです。

野蛮で不潔な描写への違和感

 真田広之さんは、これまで誤解に満ちた日本人像が多かったので、「僕たちの時代でそれを払拭したい」と思い続けてきたと語っています。だからこそ、主演だけでなくプロデューサーも務め、アクションだけでなく、刀のあつかい方から着物の着付け、昔の日本の所作などについて、日本から時代劇の専門家をまねいて、徹底的に洗い直したそうです。また、室内の撮影でも照明には自然光や灯明皿を使うなど、時代背景を踏まえた明暗にもこだわったといいます。

 大作であればあるほど、誤った描き方がされていれば、それが蔓延してしまう危険性がありますから、真田さんの努力には価値があると思います。

 とはいっても、真田さんは歴史の専門家ではありません。また、所作や殺陣の専門家が微に入り細に入り指導しても、舞台となっている時代の状況が正確に描写されるとはかぎりません。

 そもそも、このドラマは主役の吉井虎永からして、徳川家康がモデルではあっても架空の人物です。それぞれの人物にはたいてい、歴史上に実在したモデルがいますが、歴史上の人物そのものではありません。ですから、あそこが史実とこう違います、などと指摘してもまったく無意味です。そこは、いかにもありそうな設定だったら別によいと思うのです。

 私がいちばん気になったのは、あの時代の日本人がとても野蛮で、彼らを取り巻く環境がとても不潔に描かれていたことです。

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