トラックドライバーが「路上に駐車しながらハンドルに足を乗せて寝転ぶ」のには理由があった 「コロナ禍」「2024年問題」に揺れた“国の血液”の実像

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コロナ禍のトラックドライバーたち

 そんなトラックドライバーは、ある時期「エッセンシャルワーカー」と呼ばれていた時期がある。そう、「コロナ禍」だ。

 今や同語は、「死語」を通り越し「幻」と化した言葉にすらなっているが、第1波只中のトラックドライバーたちは、そんな名称の裏側で「コロナ運ぶな」と言われたり、無言で除菌スプレーを吹きかけられたりするなどの差別を受けていた。

 愛媛県では、自身の親が感染者が出た地域を行き来するトラックドライバーだという理由から、新入生が小学校の入学式への出席を断られたケースもある。

 筆者のもとにも「自分が長距離トラックドライバーという理由で、妻が工場の出社を拒否され有休を消化させられながら自宅待機している」という相談があった。

 さらに当時、感染拡大防止策として飲食店が20時で閉店になった時期があったが、その時短措置によってSA・PAの食堂まで閉店。外出自粛要請が出ているなかでSA・PAの食堂を使うのはそばうどんを背中丸めてすする“エッセンシャルワーカー”くらいしかいない。

 当時のトラックドライバーたちからは、

「飯も食うなって言うのか」

「何がエッセンシャルワーカーだ」

 という声が噴出していた。

 さらに世間が知らないところでいうと、同時期、彼らがよく使う施設に設置してあるシャワールームが全国で1週間閉鎖になったのだ。季節は春先。シャワーが使えなくなり衛生面が保たれなくなれば、1人で走るドライバーとはいえ感染リスクは避けられない。

トラックドライバーの気質

 そのシャワールームが閉鎖された当初、トラックドライバーたちからは、

「長距離トラックドライバーなので、月曜日に出勤したら土曜日まで戻れず毎日車中泊。シャワールームが閉鎖されたらどうにもなりません」

「万が一、ウイルスが体についたままトラックで睡眠をとれば、感染リスクは高くなる」

 といった声が聞かれていた。

 しかし……後日、その1週間をどうやって乗り切ったのかを改めて聞いたところ、こんな声が。

「ガソリンスタンドの洗車する水で頭とか体を何度も洗いました。寒かったんで死ぬかと思いましたね。もしかしたら飲んじゃいけない水だったかもしれないけど、その水で歯も磨きましたよ」

「公園のトイレで、ボディソープを垂らした濡れタオルを使って体を拭いていました。シャンプーもそこで済ませました。洗面台と蛇口の距離が近いので大変でしたね」

 驚くことに、彼らのその過酷な1週間を語る「口ぶり」は、非常に明るかったのだ。得体のしれないウイルス蔓延のなか、彼らはむしろピンチを楽しんでいたような雰囲気さえあった。

 トラックドライバーたちは、今の仕事を心から楽しんでいる人たちが多い。トラブルなどが起きても、それを1つ1つ越えていくパワーをもっている。

 長時間労働で低賃金、力仕事も強いられるゆえ、「底辺職だ」「誰でもできる仕事だ」と揶揄されることがしばしばある。しかし、現場から聞かれるのは真逆の声。多くのベテランドライバーからは「天職」との声さえ多く上がる。

 また、「人とのしがらみが好きではない」と言いながらも、人たらしが多く、私が1聞くと100返してくるほど、熱く「人好き」が多い。

 一部のトラックドライバーのせいでマナーが悪い、怖いなど、悪いイメージがついてしまっているが、是非機会があればドライバーに「お疲れ様です」と声を掛けてみてほしい。

 テレながらもはにかんだ笑顔が返ってくるはずだ。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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