トラックドライバーが「路上に駐車しながらハンドルに足を乗せて寝転ぶ」のには理由があった 「コロナ禍」「2024年問題」に揺れた“国の血液”の実像

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2024年問題とは

 そんなトラックドライバーに対して、半年ほど前までメディアで連日報じられてきた話題がある。先にも出た「2024年問題」だ。既にご存知の読者の方もいるだろうが、改めて説明したい。

 というのも、一線の現場に聞くと同問題に対する認知度は約90%ほどなのだが、世間からは今でも「2024年問題という言葉を聞いたこともない」という人が少なくなく、私自身驚くことがあるのだ。

 2024年問題とは、トラックドライバーの労働時間が短くなることで生じる諸問題のこと。

 2020年までにほとんどの業種に施行された「働き方改革」だが、トラックドライバーをはじめとする職業ドライバーは「長時間労働の是正に時間がかかる」という理由から、施行が5年間猶予されていた。

 その猶予が2024年4月1日に明け、ついにトラックドライバーにも施行。元々慢性的な人手不足のなかドライバーの労働時間が減少することで、「今まで運べていた荷物すら運べなくなる」と懸念されているのだ。

 それが“世間”のいう「2024年問題」である。

 しかしその一方、現場のドライバーたちにとっては、荷物が運べなくなる以上に深刻な問題が起きている。その筆頭が「給料の減少」だ。

 多くのドライバーの給与形態は「歩合制」。走った分だけ給料に反映されるため、労働時間が減れば必然的にドライバーの給料も減少。中には月に10万円減というケースもあるため、現役のドライバーたちからは「なんてことしてくれたんだ」という声が絶えない。

 なかには副業を始めるドライバーもおり、「以前より働く時間が延びた」という本末転倒な状態になっているケースもあるのだ。

宅配は総輸送量の7%以下

 この2024年問題の報道を通じて「世間が誤解している」と強く感じるものがある。「物流」という概念そのものだ。

 世間で「トラックドライバー」というと、真っ先に思い浮かぶのは「宅配ドライバー」だろう。「2024年問題」を報じるメディアでも、「2030年までに35%の荷物が運べなくなる」としながら、毎度「宅配の再配達の現場」に密着取材した特集が散見された。

 しかし、実態は全く違う。

 全日本トラック協会のデータによると、「宅配」はトラックによる総輸送量の「7%以下」だ。しかも、これは他の運び方と併せた数で、実質的な宅配の輸送割合を「2~3%」程度とする調査もある。

 無論、宅配の現場自体も非常に過酷だ。再配達はなくすべきだし、過酷な労働環境は早急に是正されなければならない。

 しかし、その7%以下の、さらにそのごく一部の再配達問題ばかりにスポットを当て世間にアピールする国やメディアの報道を観るたび、他90数%を担う企業間輸送のトラックドライバーたちはこれまで幾度となく天を仰いできた。

 例えばECサイトで「レトルトカレー」を購入したとしよう。

 2024年問題の本質は、世間に懸念されているような「レトルトカレーが翌日届かなくなる」問題ではない。「レトルトカレーそのものが作れなくなる」問題なのだ。

 カレー製造工場にはニンジンや玉ねぎといった野菜、そして肉といった材料がトラックによって運びこまれる。それだけではない。肉にする牛や豚、野菜を育てるために使用する飼料や肥料などもトラックによって運ばれている。

 その「企業間輸送」を担うトラックドライバーたちの労働時間が減り、これまで運べていた荷物が運べなくなるため、結果的にレトルトカレーという商品そのものが作れなくなるわけだ。

 2024年問題は、世間が思っているよりかなり根の深いところの問題なのである。

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