【虎に翼・最終週】「実父からの性虐待」を朝ドラで扱うスゴさを再確認…有終の美を迎えそう
ドキュメンタリーで描かれた「実の父親による性虐待の被害女性の“心の傷”の複雑さ」
「性虐待」をテレビはどう扱ってきたか。「虎に翼」はドラマだが、ドキュメンタリーになると、実の父親による娘への蛮行を描いた「がらくた〜性虐待、信じてくれますか〜」がある。2020年に中京テレビが制作した。
当時、「#MeToo」運動の機運が高まるなか、幼少期からたびたび父から性虐待を受けてきた女性・なみさん(仮名)が、声を上げる様子を密着取材した作品だ。なみさんは、性被害者らの集会などに参加すると過呼吸発作に見舞われるなど、数々の「心の傷」に今も苦しめられている。
番組では、ネットを通じて接触した男性に、着用していた下着を公衆トイレで売り渡すなみさんの様子も映されている。ときおり、ホテルにその類の女性マッサージ師を呼び、満たされようとしているというエピソードもあった。そうした行動は「父親から暴力で奪われてきた自分の体験を“上書きする”行為」なのだと、なみさんは説明する。
被害者のこうした「心の傷」をテレビで初めて報道したとして、「がらくた」は2020年の日本民間放送連盟賞のテレビ部門のグランプリ作品に選ばれた。さらに、2021年には日本メディア学会が制作者らを招き、ワークショップを開催した。その席では、性暴力被害者を長年にわたって取材してきた元朝日新聞のジャーナリスト・河原理子さんが次のように評価した。
「『がらくた』で映し出されるなみさんの様子は、性暴力被害者のありようとして『腑に落ちる』ものであり、状況が映像で表現されることで文章だけでは表現しがたいリアリティがもたらされている」
「がらくた」では、娘の被害を知っていたのか知らずなのか、なみさんの母親が、彼女の言葉を信用しようとはせず、むしろ夫側につこうとする姿勢を見せていたことが印象的だった。ワークショップでは母親も、DV被害者である可能性などが議論になった。これは「虎に翼」の描きかたに重なる。美位子の母親も同じように自信なさげで、娘を助けてほしいと弁護士たちに頭を下げるだけの弱々しい存在だった。
性暴力がもたらす「心の傷」の深刻さは、現在でも広く知られているとは言い難いし、どんな「傷」なのか、という点も共有されていない。むしろ「被害者らしさ」のステレオタイプを押し付ける傾向も根強い。それどころか、被害者に対し、「ふしだらだ」とか「うそつき」などと、攻撃する者までも現れる。そうした現状において、朝ドラという万人が見るメディアで「性虐待」を扱うことは、大変な勇気と苦労があったことだろうと想像する。
2023年のジャニーズ性加害問題でも、故ジャニー喜多川氏の行為による「心の傷」を引きずって、うつ、自殺願望、不眠に苦しめられている被害者たちの証言が報じられていた。「当時のジャニー氏と同じような年齢の男性を見ると、フラッシュバックし、胸が苦しくなって動けなくなる」と、数十年も経った現在も、後遺症に苦しみ続けている方もいた。
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