「介護の不安」で81歳妻を絞殺した87歳夫に懲役8年 「自分が残った方が子供たちに迷惑をかけない」58年間連れ添った妻を殺めた“身勝手すぎる理由”

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 補聴器を耳につけた87歳の男は判決をみじろぎもせずに聞いていた。男は58年間連れ添った81歳の妻の首を絞めて殺害した罪で裁かれた。犯行動機は「介護の不安」。老い先短い男に下された「懲役8年」は重いのか、それとも軽いのか――。(前後編の前編)

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温厚そうな顔をした白髪の老人

 被告の名は吉田春男(87)。昨年12月14日、東京都練馬区の自宅内で妻の京子さん(当時81)を絞殺した殺人罪に問われた。一審の裁判員裁判は東京地方裁判所で9月12日から20日まで4回にわたって開かれた。

 法廷に現れた吉田は温厚そうな顔をしており、人を殺めた男には決して見えなかった。白髪で背が160センチばかり。手錠と腰縄をかけられ、ゆっくりとした足取りで法廷に入ってくる姿は痛々しくもあった。吉田は傍聴席や弁護人に向けて恭しく頭を下げていた。

「間違いありません」

 証言台に立ち、罪を認めた声はか細かった。休憩に入る度、補聴器をつけた吉田に弁護人が「ちゃんと聴こえていますか?」「もっと大きな声で話してください」と話しかけるやり取りが続いた。

 その度、吉田は「はい」と答えていたが、他の人の話を聞いているだけの時の表情は惚けているようにも見え、裁判長から「ちゃんと聞いていますか」と嗜められることもあった。

「早く昼食を食べろ」からケンカになり…

 事件が起きるまでのあらましは次の通りである。

 吉田は1965年に京子さんとお見合い結婚。その後、2男1女を授かった。99年に定年退職するまでは印刷会社に勤務。その間、長女は嫁いで出て行き、退職後は自宅で京子さんと2人の息子の4人で同居する生活を送っていた。

 夫婦間に大きな変化が訪れたのは、2022年、京子さんがかかりつけの病院に通院中、転倒する事故を起こしてからだった。

 それから京子さんは歩くのに杖が必要になった。風呂に入る頻度も減り、一階の居間で深夜遅くまでテレビを観る昼夜逆転の生活を送るように。京子さんは耳が遠くなっていたためテレビの音量は大きく、隣の自室で寝ていた吉田は不満を募らせていった。

 そんな矢先の昨年10月、近所に住んでいた吉田の甥が75歳で他界する。精神面で甥に頼って生活してきた吉田のショックは大きく、以降、急激に老け込み、精神状態が不安定になったという。

 2階に長男と次男が同居していたが、2人とも1階に住む夫妻との接点は薄く食事もバラバラだった。特に次男は派遣業に勤務はしていたものの、帰宅後は引きこもりのような状態で家族とほとんど会話もしなかった。

 そして事件当日の12月14日午後1時過ぎ。2人の息子は仕事に出掛けていて、家の中は夫婦2人きりだった。吉田はまだ昼食を食べていなかった京子さんに「早く食べろ」と声をかけたが、京子さんは「まだ早いんだ」と言い返した。

 その刹那「それまでの怒りが頂点に達し」(検察側冒頭陳述より)、吉田は玄関方面に向かおうとしていた京子さんの肩を押さえつけてトイレ前にあるスペースまで連れ込み引き倒し、両手で頸部を押さえつけて窒息死させたのである。

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