小学校で飛び交う「こいつとは無理」「キモい」の声…なぜ学校現場では“多様性”よりも「分断」と「格差」が助長されてしまうのか【石井光太×木村泰子】

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 デジタルデバイスに囲まれる子どもと親や教師はどう向き合うべきか。現代の子どもたちが置かれた状況について取材を重ねてきたノンフィクション作家、石井光太さんが、『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)を上梓し、保育園から高校まで、200人以上の「先生」から聞いた“答え”をまとめた。かたや、映画『みんなの学校』や著書『「ふつうの子」なんて、どこにもいない』などで知られる、大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子さんも現代の教育環境を憂う一人。その二人の対談から浮かびあがる子どもを取り巻く問題点とは――。

(7月17日に行われたウェビナー「木村泰子先生に聞く 先生と親で考える<子どもたちの悲鳴> 『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(石井光太著)刊行記念」をまとめ、編集しました)【前後編の前編】

子どもの本質は何一つ変わらない

石井 今日は泰子さんとお呼びします。よろしくお願いします。

木村 ありがとうございます。もう先生は辞めているので、下の名前で呼んでいただけたら。今日は石井さんにお会いできるのが、すごく楽しみやったんです。こういう言い方したら怒られるかわからへんけど、今回の新刊は教育評論家がご自分の研究の視点で言葉を述べられている本と全く違うわけですよ。200人、すごい数の上、幼小中高の先生それぞれに聞いておられる。それだけでもすごいじゃないですか。

石井 なかなか誰も言ってくれないので嬉しいです。

木村 まず、『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』ってめちゃくちゃ衝撃的なタイトルでしょ。

石井 そうですね。

木村 現代社会の子どもが描かれ、「ほんとはこうやねんよ」と共感する言葉がちりばめられています。読み終わった後に私、自分の中でタイトルが変わってしまったんですね。石井さんに怒られるかわからへんけど、自分の中で『現代社会が子どもを壊す』、そんなタイトルの本だなと。

石井 いろんな先生方にお話を聞くと、先生は教育現場で苦しんでいたり、うまくいかなかったり、もがいていたり、そういった子たちを見てるわけですよね。例えば不登校の子どもたちがなぜそういう境遇に追いやられたのか、ということを現場の先生方はものすごく言いたいし、外部に向けて言わなきゃいけないと思っているんですね。しかし、組織に属する1人の教員としてなかなか言えない。そうした中で私のインタビューでは語っていただけたような。

 泰子さんはいろんな学校を見てらっしゃると思うんですけれども、子どもという存在が昔に比べ変化しているのか、どうお感じになっていますか。

木村 石井さんは本の中で「時代が変わった」という言葉で教育問題をごまかしているのではないかと書かれていますよね。これは現場の教員にとって、刺さる言葉なんですよ。教員たちが教育現場で起こる問題について、時代のせいにしている現実が確かにあるんですね。でも、それは時代のせいではない。子どもの本質は何一つ変わらないって思います。

子守歌をスマホで流す

石井 本の中でたくさんの先生たちの声を紹介させていただきましたけども、いまは「ホモ・サピエンスの生育環境じゃない」いう京都大学の明和政子先生の言葉が印象的でした。

 子どもは、本来、ほかの子と触れ合ったり、家族とは別の大人と出会ったり挫折をして、新しい発見をして、いわゆるホモ・サピエンスとしての人間の強さ、例えば向上心だとか勇気だとか優しさ、あるいは、「自分はここで生きてていいんだ」とかそういう力を獲得していく。

 それが最近だと、子守歌をスマホで流して寝かす。保育園、幼稚園の段階から、オンラインゲームで遊んで、家の中で「死ね」とか言いつつ、銃で撃ち続ける。また、親自身が子育ての仕方をわからず、育児を外部発注する。塾に通わせる、英会話を習わせる、プログラミングを習わせる、などですね。複雑な環境の中で子どもが生きづらさを抱えてしまうと、特に保育園の先生は、涙を流しながら語っていました。自分たちがやりたい保育を全然できないんだと。さらに、その保育のしわ寄せが小学校にきているという一面もあると思うんです。

 泰子さんは、未就学の段階でうまくいかなくなった子どもたちを小学校でうまくいくようにするために“巻き直し”が必要だとお話しになっています。先生から見て子どものどういう部分に巻き直しが必要だと思われるんでしょうか。

木村 大空小学校は10以上の保育園、こども園、幼稚園から入学してくるんですね。実は入学してきた子どもの資料を見なくても、子どもの喋り方、友達との関わり方、行動を見れば、どの幼稚園から来たかがわかるんです。なんでやと思いますか。

石井 幼稚園それぞれで教育の仕方が違う、そういうことですかね。

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