「大谷翔平は運命を自由自在に手なずけている」 横尾忠則が憧れる“カッコよすぎる生き方”の原点とは

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 大谷翔平選手が花巻東高3年生の時に「人生設計シート」を書いていたというのです。それによると18歳でメジャーに入団することになっていますが、実際はこの年に日本ハムに入っています。設計では18歳の時にメジャーに入って、20歳で15億円の契約、23歳でWBC日本代表、24歳でノーヒットノーランと25勝達成、25歳で世界最速175キロ達成、26歳でワールドシリーズ制覇、そして結婚、28歳で男児誕生。その後も40歳で引退試合、そこでノーヒットノーランで抑えて勝利、翌年日本に帰国して、後に岩手でリトルリーグの監督、日本一になる。65歳でメジャーの年金3000万円、70歳でスポーツを愉しむ明るい生活を目指す。

 まあ野球中心の人生設計ですが、70歳になるまで毎年の目標を立てています。まるで予言者のようです。その人生設計によると、大谷は高校3年の時すでに世界のトップランナーを指向し、それを実現するつもりです。

 夢とか希望を超えて実に現実的に成功路線を引いています。まあ18歳の少年の将来に対する願望なんでしょうが、あまりにも具体的な成功計画としかいえないように思います。

 これもひとつの生き方のサンプルかも知れませんが、その根底に名誉、地位、財産に対する欲望がチラついて、ちょっと不気味な気がしないでもないです。今後もこの人生設計通りになるかどうかはわかりませんが、少くとも18歳の大谷の成功無意識願望ということになるんでしょうかね。

 それにしても、57歳でプロ野球界から引退するといういさぎよさもあり、自分の過去の栄光に執着していないところは、大谷のファンのひとりとしてはホッとしないでもないです。

 いずれにせよ見事な成功物語の計画です。多分、彼は計画以上の成果を上げて、彼の生涯は英雄物語として永久に語りつがれることになるでしょうね。

 彼のこの計画は現実通りにピタッといかないかも知れないけれど、かなりの確率で実現すると思います。とすると彼の愉しみや喜びは自分の立てた計画通りの実践にあるわけですから、予期せぬ事態が起きる可能性はどの程度、想定されているのでしょうか。

 あの予期せぬ水原問題や左膝蓋骨(しつがいこつ)の手術は彼の計画には入っていませんでした。想定外の事件と事故だけに彼は大きいショックを受けたはずです。彼の生き方を見ていると、彼は思い通りに運命を自己に引きつけて、運命になるべく翻弄されない生き方を選択しているように思います。そこは僕と真反対の生き方です。

 彼のように未来を設計できません。どちらかといえば状況に身をまかせる受動的な生き方です。そんな僕に対して大谷は、目的と計画に従がった運命を自由自在に手なずけて生きるダイナミックな哲学を持っており、衆目の憧れの的としての生き方をわれわれに示してくれて、誰もが彼に憧れます。

 僕は本当に優柔不断で、運命には抵抗しない、だから目標も努力もまあまあです。一般的には大谷の生き方が求められます。だから、彼が運命を引き寄せて、次々と思い通りに歩んでいくそのダイナミズムが彼の人気の理由です。

 本質的にメンドーくさがりな僕は、運命に身をまかせてしまいます。何が起こってもシャーナイヤンケと思ってしまう質(たち)です。これじゃ大谷は承知しません。僕のように運命に従がう人間は、なるようになる生き方しかできません。悪いこともいいことも全てなるようになるのです。

 大谷は違います。なるようにするのです。そこが決定的に異ります。大谷の生き方は欲望的です。どちらかといえば人間主義的な生き方です。能動的です。それに対して僕は受動的です。ですから僕の生き方は危険で怖いという人がいます。つまり、何が起こるかわからないからです。一方、大谷は危険なことは避けます。自分の思い通りに自我をむき出します。そこが人間主義的で現代的で、どんどん現実を切り開いていきます。

 僕はそれができないのです。大谷の生き方は確かにカッコいいです。彼の行動はスカッとしていて、如何にもスーパースターです。大谷に比べて僕はどうもトリックスター的なところがあります。つまり無鉄砲で無手勝流です。

 だけど、僕は大谷の大ファンです。彼の一挙手一投足に興味があります。彼の計画的な生き方に対して僕の無計画的な生き方はコインの裏表のような気がするからです。何故か大谷のすべてが知りたいのです。つまり大谷の生き方は僕の生き方の真逆の生き方なのにどうして彼に興味があるのかな?と思うのです。似た者同士ってあまり興味ないですよね。僕も予言的なことには関心がありますが、彼の予言は現実的です。僕の予言は非現実的で夢に近いように思います。

横尾忠則(よこお・ただのり)
1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。第27回高松宮殿下記念世界文化賞。東京都名誉都民顕彰。日本芸術院会員。文化功労者。

週刊新潮 2024年9月19日号掲載

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