中国「10歳男児」刺殺事件はなぜ起きたか 背景にあった「ナチュラルな反日意識」と「日本人への社会的報復」

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今後も同様の事件が起きる公算は高い

 第二に中国では社会的報復と呼ばれる、不満を抱いた人々による弱者への襲撃事件が頻発していることが挙げられる。ウィキペディア中国語版には「中国学校襲撃事件」なる項目がある。小学校だけでも3件が掲載されている。8人が死亡した福建省南平市小学校襲撃事件(2010年)、2人が死亡した上海市外国語小学校襲撃事件(2018年)、10歳男子が死亡した江西省上饒市小学校殺人事件(2019年)だ。記録されているのはごくごく一部に過ぎない。日本を訪問した中国人は、子どもだけで登下校する日本の安全性に驚くが、裏を返せば中国では子どもを守るためには親が付き添う必要があると考えられているからだ。

 こうした社会的報復事件の多くは、精神に異常がある人が起こした個別の事件として処理されてきた。日本の10倍以上の人口がいる中国だけに、異常な事件の数が10倍あっても当然ではある。とはいえ、社会に不満を持ち、かつ誰からも助けを得られない人が凶行に及ぶという構図は共通している。インターネットに書き込んでも共感や反応を得られず、政府に陳情しても相手にされない。だったら最後に大騒ぎを起こして注目を集めてやろうという破れかぶれの行動だ。

 6月の蘇州、そして今回の深センと、2件の事件が短期間で連続して起きたのはなぜか。日本人の子どもを狙った襲撃事件ならば、国際社会まで含めたより大きな社会的反響を呼び起こせると認識された結果ではないだろうか。

 となれば、何の対策も打たなければ、今後も同様の事件が起きる公算は高い。特に経済が低迷し社会に鬱屈した空気が蔓延しつつある状況であることを考えれば懸念は募る。「個別の事件」という決まり文句で幕引きするのではなく、惨事を止めるための実効的な対策が求められる。

高口康太
ジャーナリスト 千葉大学客員教授
1976年千葉県生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中華人民共和国・南開大学に中国国費留学生として留学。中国経済、企業を中心に取材、執筆を続ける。著書に『中国「コロナ封じ」の虚実―デジタル監視は14億人を統制できるか』(中央公論新社)など。

デイリー新潮編集部

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