「W杯優勝」が野望「習近平」の面目丸つぶれ…腐敗する「中国サッカー界」八百長、賭博、汚職で34人が懲役刑、元代表は永久追放  

国際 中国

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腐敗の元凶は習近平のサッカー改革案

 混乱の原因について、日本の選手の育成にもかかわった元プロサッカー選手で指導者のトム・バイヤー氏は台湾紙「自由時報」のインタビューで、「習近平氏が『中国にW杯優勝を』と発言したことが最大の失敗だ」と指摘している。

 習氏が熱狂的なサッカーファンであることはよく知られている。習氏は少年時代からサッカーに親しんでおり、片時もボールを話さなかったともいわれるほどだ。父親の習仲勲氏が中国副首相を務めるなどの大幹部だったことから、習氏は文化大革命(1966~76年)で迫害を受け、中国の片田舎である陝西省・梁家河に下放され、肉体労働を強いられた。その際、無聊を慰めたのがサッカーだった。夜遅くに布を丸めたボールを蹴って気を紛らわせていたというほどだ。

 その後、地方幹部を経て、党最高幹部である党総書記に就任する1年前の2011年7月、当時、中国国家副主席だった習氏は韓国を訪問し、当時の韓国民主党党首の孫鶴圭氏と会談した際、サッカーに賭ける3つの願いを披露した。それは(1)ワールドカップ(W杯)に再び出場する、(2)中国がW杯を主催する、(3)W杯で優勝する――ということだった。

 中国サッカーチームがW杯に出場したのは2002年大会の1度切りだ。まずは、中国代表チームが再度のW杯出場を目指して態勢を整えるのが先決とばかり、習氏は2015年3月、主催する「全面的な改革深化のための指導グループ」の会合で、国策としてサッカーを支援する「サッカー改革プラン」を可決させた。同プランでは「スポーツに強い国はサッカーにも長けている必要がある」としたうえで、それは「国家全体の悲願」でもあると強調しており、この改革案の裏には、習氏のサッカーにかける熱い思いがあったに違いない。

 改革案では、「2050年までに中国をサッカー強国に」という趣旨の国家プロジェクトをスタートさせ、数億ドルを投じて世界的な選手や指導者を招聘するとともに、15年から20年までの5年間でサッカー場を6万カ所新設すると発表した。15年時点で、中国には1万ものサッカー場があったので、20年までにサッカー場だけで7万カ所も存在することになった。これは人口2万人の市町村にサッカー場が1つという計算だ。

 しかし、このような壮大な計画が実行されながら、中国サッカーは依然として、汚職や八百長、サッカー賭博など慢性的な問題を抱えており、代表チームも国際舞台で結果を出せずにいる。

トラもハエも叩く

 中国の場合、国家的なプロジェクトに資金を投入すればするほど、その金を狙って魑魅魍魎が暗躍するという傾向がある。目先の利益に惑わされ、未来に向けて、地道に競技者を育てるよりも自身の利益を考えるという傾向が指導者になればなるほど顕著になっている。

 それは、習氏が2012年に党総書記に就任後、直ちに打ち出した「トラもハエも叩く」という党内の腐敗撲滅キャンペーンを発動しながら、すでに12年以上たったいまも、党政府高官が多数逮捕されていることを見れば一目瞭然だ。

 構造的な問題を抱えている中国サッカー界について、前出のバイヤー氏は「最高レベルでの成功や失敗に焦点を当てると、方向感覚を失ってしまう可能性がある。まずはU-17W杯への出場を現実的な目標とすべきだ。より多くのリソース(資源と財源)と注目を、若い選手に向けることで目標はより現実的にものとなっていくだろう」と指摘している。

相馬勝(そうま・まさる)
1956年生まれ。東京外国語大学中国語科卒。産経新聞社に入社後は主に外信部で中国報道に携わり、香港支局長も務めた。2010年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『習近平の「反日」作戦』『中国共産党に消された人々』(第8回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞)など。

デイリー新潮編集部

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