「生きているだけで悲しいのはなぜだろう」 俳優・藤原季節が振り返る、東京で出会い別れた人々
丸裸の対話
演技に出会った時、その仮面を脱ぎ捨てなければいけなかった。僕にとっては、演技をしている自分こそが真実だった。誰かの書いた言葉に、真剣に心を動かし、それを吐き出す。誰かの本気を、受け取る。丸裸の対話。僕はその場所で、本当の友人に出会った。素顔をさらしあって、恥じらいを隠すためにまた酒を飲み、やっと本音をぶつけたら、また忘れる。忘れたから、また会いに行く。
「こないだの俺、大丈夫だった?」
そんな夜を積み上げて、僕らは映画や演劇の河を渡っていく。小さい河から、巨大で暗い河まで、手を取り合って越えていく。溺れるように、河岸にしがみついていた12年前、あの時僕を捕まえて引っ張り上げてくれたライ麦畑のキャッチャーたち。いま僕は、その人たちのことを、忘れたくないと思う。忘れたく、ない。
[2/2ページ]