テレビ討論会後の「ハリス氏優勢」は本当か 世論調査に現れない“隠れトランプ”支持層の存在、無党派層の動向がカギに
「移民が犬や猫を食べている」
ロイターが9月12日に発表した世論調査結果によれば、民主党候補・ハリス副大統領の支持率は47%、共和党候補・トランプ前大統領の支持率は42%だった。8月下旬の調査ではハリス氏が45%、トランプ氏が41%だったため、10日に開催されたテレビ討論会でハリス氏がリードを広げた形だ。
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米民放ABCが主催したテレビ討論会の推計視聴者数は6710万人と、6月下旬に米ニュース専門局CNNが主催したバイデン大統領とトランプ氏の討論会の5100万人を大きく上回った。
米国の多くのメディアは「ハリス氏が優勢だった」と報じているが、一方では「これにより選挙の趨勢が決まったとは言えない」との声も聞こえてくる。
楽観的で前向きなハリス氏に対し、トランプ氏はおなじみの「暴言」を繰り返した。結果としてハリス氏が成功を収めた感があるものの、今回の討論会はかつてと事情が異なるからだ。
トランプ氏は「移民が犬や猫を食べている」などの問題発言をした。だが、これは現状に不満を持ち、同氏に破壊的なカタルシスを期待する極右主義者たちの支持をつなぎとめるための計算だった可能性がある。
世間体を気にする隠れトランプ支持層
専門家は「今回のように両極化した選挙戦では、たとえ討論会で好印象を得たとしても、多くの有権者が既に心を固めているため、票が大きく動くことはないだろう」と指摘する(9月12日付ニューズウィーク日本版)。
社会の分断が進む米国では、選挙に関する世論調査を巡って悩ましい問題も頭をもたげている。その精度に疑問の声が上がっており、専門家は「トランプ氏が参加した選挙でその傾向が強い」と懸念しているという(9月6日付日本経済新聞)。
なぜなら、トランプ氏の支持者は主要メディアや調査機関を「リベラル寄り」と敬遠する傾向がある。そして、人種差別的な発言をするトランプ氏を支持するのは「世間体が悪い」と考え、世論調査に応じない人が少なくないからだ。この状況は「隠れトランプ支持層」が少なからず存在することを意味する。
世論調査の回答率の低下も頭の痛い問題だ。米ピュー・リサーチ・センターによれば、電話調査の回答率は1990年代後半で36%だったが、2000年代末は15%に、2018年は6%に低下した。直近は1%前後だという。
米国民が何を考えているのか推し量りにくい状況では、大統領選の結果を左右する無党派層の動向も把握できないと言わざるを得ない。
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