「金持ちって暇なの…?」 「スカイキャッスル」に「ブラックペアン」どちらかといえば面白くなかった“富裕層ドラマ”を分析

  • ブックマーク

 金持ちというか、一代で資産を築き上げたような人や、人一倍稼いでいる人の大半は、死ぬほど努力して苦悩して働いていることは分かる。巨額の税金を払っているであろうことも分かる。でも、いけすかない。いけすかないからこそ、金持ちの生態をのぞき見したい。不運や不幸を眺めて「金があるからといって必ずしも幸せではないのねぇ」と、スルメ焼いて猫をなでて酒飲みたい。それが庶民ってもんだ(あ、これは「家政婦は見た!」の市原悦子ね)。

 生活感皆無の豪奢な暮らしぶりも見たいし、苛烈で見苦しい遺産争いを展開してほしいし、札束で頬をはたいて人をこき使う人としての卑しさも、ドラマの中ではお披露目してほしい。が、今夏は「金持ちって結局暇なんだな」で終わる富裕層ドラマが多かった。面白いか面白くないかでいえば後者。見どころはちょいちょいあったとはいえ、酒のさかなとするには厳しい4作品を雑にまとめてみました。

 同族経営で莫大な資産と権力を手にした九条一族に対して復讐を仕掛ける、謎のコーディネーターが暗躍するのが「マル秘の密子さん」(日テレ)。主演は福原遥。貧乏なシングルマザー(松雪泰子)の一家を巻き込んで、徐々に九条家を脅かす、いわば家族乗っ取り計画。ファンシーなサスペンスだが、荒唐無稽さが目立ち、イマイチ没頭できずに流し見へ。珍しく桜井日奈子の奮闘がおかしかったので、それは記しておこう。

 無礼な天才、金持ちのボンがAIで教育改革と掲げたのは「ビリオン×スクール」(フジ)。コメディー筋肉隆々の山田涼介がどことなく小林よしのりの「おぼっちゃまくん」風。スクールカーストやいじめなどの学園モノの定番問題を教育用AI(安達祐実がAIを演じるのよ)に頼る発想は面白いと思ったが、AIと札束で解決。以上。後半で山田の幼少期の苛酷な体験が描かれてやっとエンジンがかかるも、ちと遅すぎた。スピーディーなのは職員室の面々とAdoの音楽だけ。技術と才能の無駄遣い。

 今夏ワーストなのは、巨額の金や資産を賭けさせて人の命をもてあそぶ、公開オペと称した医療技術ショーの連日開催にへきえきした「ブラックペアン シーズン2」(TBS)だ。1のキャラと同じ顔で別人を演じる二宮和也。どうせ双子か記憶喪失だろ、と思っていたら案の定。たいてい医師本人やその家族が病気っつう医療モノの定番を脱することもせず、目新しさも面白みもない。役者以外の芸能人起用で話題を呼ぼうとする日曜劇場のやり口も変わらず。つうかペアンはどうした?

 さて、金持ちの暇つぶし感が最大限に生かされているのは、ドラマ絶不調のテレ朝がお送りする「スカイキャッスル」だ。お受験地獄は本場韓国ならもっとしっくりくるんだろうけれど。主演の松下奈緒のハングリー精神と毒親っぷりが珍味で好物ではあるのだけれど。妻たちのお受験狂騒と夫たちの権力闘争を観ていると、脳内には「相棒」の山西惇が度々降臨。「暇か?」。金持ちの生態に、本当は興味がないことを実感できました。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年9月19日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。