目黒蓮「海のはじまり」が20代より40代以上に“刺さる”深い理由

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どこかに流れ着くしかない

 夏は迷い、母親のゆき子(西田尚美)に「子供が全部、親の都合に合わせて変えるのは違うんじゃないかって」と、いまの思いを打ち明けます。 続いて、水季の実家で彼女の父親の翔平(利重剛)と話していると、ここで一緒に住めばいいと話す翔平が言ったのは、「孫や子供に甘えられないで、なにを生きがいにしたらいいの? 娘がもういないっていうのに」。海の祖父母にもまた内的真実があったのです。

 すでに恋愛関係を解消している弥生は、そうした状況を抱えた夏に、「大丈夫だよ。だれも悪くないんだから。ちゃんと大丈夫なところに流れ着くよ」と言います。これはある意味、神さまの御託宣のようで、人生の本質を突いています。結局、なにが正解かなんて問うてもムダで、どこかに流れ着くしかないのです。幸福も、不幸も、平安も、苦難も、みんな相対的で、選択によってはどれかが色濃くなったりするけれど、それは仕方ありません。ちゃらんぽらんに選んでいないかぎり、「大丈夫なところ」には流れ着きます。

 しかし、選ぶ過程には葛藤があり、だからいろんな本質に触れ、また考え、葛藤する。きっと人生の醍醐味はそんなところにあって、『海のはじまり』には、本質をついたセリフとともに、それが描かれているのだと思います。だから、これから人生経験を積んでいく若い人以上に、もう一定の人生経験を積んでいる人たちに、よりウケるのでしょう。

 結局、夏を動かしたのは、海の祖母の南雲朱音(大竹しのぶ)でした。「しっかりしてよねってこと」「意地悪を言えば、奪うようなものなんだから」。それを受けて、夏は海に選択肢を示しました。「転校して一緒に暮らすか。転校しないでこのまま別に暮らすか」。

 しばらく対話があって、「海、夏くんと一緒にいたい。いなくならないでね。ママがいたとこ連れてってね」と海。夏は「転校していいの?」とたずね、あとは「毎日会えるんでしょ?」「毎日会えるよ」「じゃあ、いいよ」というやりとりでした。

 しかし、次回予告を見ると、海がいなくなってしまうようです。結局、熟慮に熟慮を重ねても、思うような結論なんて得られません。でも、むしろ「熟慮」して、真実なんてないと知るのが人生です。だから、視聴者の私たちも、このドラマがどんな「大丈夫なところ」に流れ着くのか、セリフを心に染みわたらせながら見守るしかありません。でも、それが人生の醍醐味に似ているから、毎回目が離せないのです。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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