初代タイガーマスクは「日本語が話せなかった」から、「猪木vsアリ戦」でショック死したファンまで、マニアも驚く秘話発掘

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猪木vsキラー・カーンでも死亡事件

 プロレス中継視聴でのファンのショック死事件といえば、フレッド・ブラッシーの噛みつき攻撃によるものが有名だ。1962年4月23日、特番編成でテレビ生中継された力道山vsブラッシーで、大流血をともなうブラッシーの噛みつき攻撃を視聴していた6人の高齢者が25日までに死亡。死因はいずれも心臓マヒだった。また、同月27日の力道山vsブラッシーの6人タッグでも流血禍は繰り返され、2人の高齢者が死亡した(死因は心臓マヒと脳出血)。断続的にカラー放送が行われていた時代であり、血の色の衝撃も無縁ではなかったのだろう。

 とはいえ、60年以上前の事件であり、これ以後はファンのショック死などないものと思っていた。しかし、現実は違っていた。

「プロレスに興奮して83歳おばあさん死ぬ」(『毎日新聞』夕刊・1983年3月26日付)。

 1983年3月25日の夜、居間で一人で「ワールドプロレスリング」を観ていた83歳の女性は、「猪木、頑張れ」と大きな声を出して興奮気味に応援していたが、急に声援が途切れ、隣室にいた家族が様子を見に行くと、女性は机にうつ伏せで倒れていた。間もなく心不全での死亡が確認された。女性はもともと高血圧で治療も受けていたという。ちなみに、この日のカードはIWGPアジアゾーン予選、猪木vsキラー・カーンだった。

 この時代、ファンの集いやサイン会に行くと、大多数の子供のファンに交じり、必ず高齢のファンが一定数いた。幅広い世代の熱狂的なファンを沸かせたプロレスブームが生んだ悲劇ともいえるだろう。

 そして、この死亡事故の7年前、あの猪木vsアリでも同様の事件が起こっていた。

「実況録画に興奮 心臓マヒで死ぬ」(『朝日新聞』朝刊・1976年6月27日付)。

 猪木vsアリの第1ラウンド、那覇市のⅠさん(77)が興奮して卒倒し、病院に搬送されるも、その場で死亡が確認された。もともと心臓が弱く、過去4回も発作で倒れたことがあったため、家人はテレビの視聴を禁じていたが、たまたま家人が外出したタイミングで起こった悲劇だった。Ⅰさんは大のつく格闘技好きで、プロレス、ボクシング、両方を応援していたという。

 猪木vsアリの実現に身命を賭けて尽力した新間寿を筆者が取材した際、この事件について振ってみた。新間は目を潤ませながら、こう答えた。

「そうか……。いまからでも、お線香をあげて手を合わせに行きたい気分だよ」

 Ⅰさんの命日となった猪木vsアリが行われた6月26日は、「世界格闘技の日」に認定されている。

「本物のタイガーはもっと大きい」

 瑞氏は語る。

「1980年代初頭の、“初代タイガーマスクの正体暴き”については、それだけで一冊の本が出来るほどの狂騒ぶりでした。以前の著書にも書いたのですが、ある巡業先のホテルまで追って来た少女ファンが、『タイガーに会えるまで、帰らない』と泣き出した。関係者が気を利かせて、既に部屋で休んでいた佐山さんに、もう一度マスクを被って降りて来てもらった。すると、少女は、さらに泣き出して、こう言ったそうです。『この人、タイガーじゃない。本物のタイガーは、もっと大きい』。そんなタイガーのイメージと、当時の子供たちへの人気の浸透ぶりも、別枠の小ネタに入れました。併せて楽しんで頂ければ幸いです」

 この他にも、驚きも感動もある、珠玉のエピソードが満載だ。

瑞 佐富郎
プロレス&格闘技ライター。愛知県名古屋市生まれ。フジテレビ「カルトQ~プロレス大会」の優勝を遠因に取材&執筆活動へ。近著に『アントニオ猪木』(新潮新書)、『永遠の闘魂』(スタンダーズ)、『アントニオ猪木全試合パーフェクトデータブック』(宝島社)など。BSフジ放送「反骨のプロレス魂」シリーズの監修も務めている。11月末には新刊を上梓予定。

デイリー新潮編集部

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