「モテないやつは出世できない」――オスを“品定め”するメスザルのシビアさは真夏の怪談よりも怖かった!【和田秀樹×池田清彦】

国内 社会

  • ブックマーク

 かつて「三高」――高学歴・高身長・高収入のような、社会的ステータスが露骨に男性に求められた時代があった。それと同様に、若くてルックスのいい恋人を連れ歩いて周囲に「マウント」をとる男性も少なくない。ヒトが自己承認欲求から逃れられない生き物であるのに対し、サルの世界ではどんな基準で「モテ度」が決まるのか? メディアでもおなじみ、和田秀樹さん(医師)と池田清彦さん(生物学者)に話を聞いた。

※本記事は、和田秀樹氏、池田清彦氏による対談『オスの本懐』(新潮新書)より一部を抜粋・再編集し、全4回にわたってお届けします。

美女やイケメンのパートナーを自慢したくなる心理

和田秀樹(以下、和田) おじさんの集まりに若い愛人を連れてきて見せびらかす、あれはなぜですか。

池田清彦(以下、池田) 自慢だね。「オレはまだ現役のオスだ」というアピール。まあ、そういう男ほど浮気もバレやすいものだけどね。

 年配の男が若い女性を好きなのは、性的魅力を感じるのもあるだろうけど、他の男たちに自慢したい、男社会でステータスを得たいという心理が働いているんだと思うな。

和田 女性にも似たような面が――。

池田 あるね。イケメンと歩いていると他の女性に自慢できるから、なるべくカッコいい彼氏が欲しい、男性の場合と同じで周囲にマウントをとりたいわけだ。友だちに紹介したり、写真をみせたりして「わあ、カッコいい」と褒めてもらいたい。

 もちろん、全員がそうだというわけではないけれど。

和田 まさしく承認欲求ですね。

池田 サルの世界では元気な子どもを産めるかどうか、それでメスの「モテ度」が左右される。ところが人間は社会的な動物だから、パートナー選びの基準として性的欲求や自分の好みより社会的ステータスが優先される場合がある。つまり、その相手と付き合うと自分が世の中からどうみられるかが重要になってくるわけだね。

和田 ひと昔前の「三高」、つまり高学歴・高身長・高収入のように、社会的ステータスがストレートに男に求められた時代がありました。

池田 先日、昔からの知人たちの集まりがあって、「娘がすごい金持ちに嫁いで」という話で盛り上がっていた。家柄のよさ、タワマンに運転手付きの車での送迎とかいろいろ聞かされたけど、とどのつまりは、周りから「すごい」といってもらえる、自慢できるような男性を選んだという話なんだな。

メスを敵に回すと“出世”できない

和田 メスがオスにステータスを求める、そういう行動は人間特有のものですか? サル山で「ボスのお気に入り」になったメスは、周囲に対してどこかマウントをとっている印象があります。

池田 マウントをとるということでわかりやすいのはニホンザルのオスで、自分より下位のオスに対してマウントをとる。

 普通、他のオスとのバトルの結果、その集団で一番強い個体がボスの座に就くわけだが、もう一つ大事なのはメスにモテるかどうか。メスから嫌われていると、どんなにケンカが強くても追い出されてしまうことがあるんだな。

ボスザルの実子はどうして少ないのか

和田 何とも、人間社会の片鱗をみるようですね。ちなみにボスザルから一番の寵愛を受けるメスというのはどのようにして決まるものですか。

池田 群れの中心に長くいるメスで、末っ子が多いね。

 サルのメスは、すべての子どもを平等に世話するわけではなくて、生まれたばかりの子どもを一番可愛がる。すると上の子は赤ん坊が生まれるたびにメスに放っておかれるから、どんどん自立してどこかへ行ってしまう。
 
 逆に末っ子は下にきょうだいができないから、末っ子がメスだとずっと親と一緒にいて可愛がられ、体もどんどん大きくなって、群れの中心的な存在になっていくわけ。そこで順位の高いオスに交尾をせがまれることも多くなるわけだ。

和田 メスはそれを断ることはできないのですか?

池田 なかなか難しい。相手が好きでも嫌いでも、順位の高いオスに交尾をせがまれると、やっぱり無下にはできないよ。中世の時代、絶対的な権力をもった王様に迫られた町娘が拒み通したら殺されてしまうかもしれないのと一緒。

 ただメスもしたたかで、順位の高いオスを受け入れはしても、生まれてきた子どもがそのオスの子かというと、必ずしもそうとは限らない。

和田 なんだか怖い話になってきました(笑)。

池田 サルのメスは発情するとお尻が赤くなるからすぐわかる。それをみたオスが交尾を迫るわけだが、排卵日まではわからない。

 しかし、どうやらメス自身はその日が妊娠するタイミングかどうかわかるらしいんだな。そういう日になると、メスは群れの縁へ行って、お気に入りのオスと交尾してその子どもを産み、あたかも順位の高いオスとの間に生まれた子であるかのように育てるんだね。
 
 群れのなかにいたら誰との子かなんてわからないけど、実際にDNA解析をしてみると、ボスの実子は思った以上に少ないそうだよ、サルの世界のことだけど。

ライオンが「子殺し」する理由は

和田 いわゆる「二股」のようなことは、動物の世界でもあるのですか?

池田 よくあるね。たとえばライオンの場合、「プライド」と呼ばれる群れを3匹くらいのオスが率いていて、その周りに十数頭ものメスがいる。プライドのオスは発情したメスと順番に交尾していくの。

和田 二股というより、「やりたい放題」といったほうが近いですね。

池田 そうね。理由は、どのオスの子かわからなくするためだといわれている。

 ライオンのオスには「子殺し」という行動がみられ、自分の子じゃないと殺してしまう。群れを乗っ取った新顔のオスは、そこにいる子どもをすべて殺してしまうわけだ。

 残酷にみえるけど、そうすることでメスが発情しやすくなって、いち早く自分の子どもを妊娠させることができる。自分の遺伝子を残すために殺す、これも本能に組み込まれた行動だけど、不特定多数を相手にした交尾であれば誰の子かわからないから殺さずに済むし、「群れの子ども」として育てることができるわけだ。

和田 すべては自分の遺伝子を残すためなのですね。

※新潮新書『オスの本懐』より一部抜粋・再編集。

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。