やり直し裁判が始まる 法廷で「よっしゃー!」と喜んだ「アポ電」強盗犯 一審判決が見誤った“酌むべき事情”
他にも数々の凶悪事件を起こしていた3人
現場付近の防犯カメラから、逃走に利用した車がすぐに割り出され、事件発生から半月後の3月13日、3人は逮捕された。逮捕後、彼らがSNSなどで知り合った他の詐欺グループメンバーらと組んで、なりすまし詐欺や凶悪な強盗を繰り返していたことも判明した。判決で犯罪事実として認定された余罪を列記する。
●2018年10月 警察官になりすまして電話した後で、神奈川県横浜市の当時57歳の女性宅を訪問。キャッシュカードをだまし取り、現金約136万円を窃取(酒井被告と他のメンバー)
●2018年11月 大阪市の路上で、当時47歳の男性に暴行を加え、財布の入ったカバン(時価合計15万円相当)を強奪(酒井被告と他のメンバー)
●2019年1月 東京都中央区日本橋の会社事務所に空き巣に入り、金庫等(時価合計3万円相当)を盗む(須江、小松園の2被告と他のメンバー)
●2019年1月 埼玉県越谷市で、不正入手した女性のキャッシュカードで金を引き出そうとするも未遂に終わる(須江被告と他のメンバー)
●2019年2月 警察官を装い、東京都渋谷区笹塚の老夫婦の家に侵入し、手足を縛ったうえで暴行を加え、現金400万円ほか定期預金証書等、時価合計123万円の金品を強奪(須江、小松園の2被告と他のメンバー)
●2019年2月 長野県佐久市のブランドショップに空き巣に入り、財布など35点(販売価格合計230万円相当)を盗む(須江、小松園、酒井の3被告)
最後のブランドショップの空き巣事件は、加藤さん宅にアポ電強盗に押し入った同日の出来事だ。彼らは深夜2時過ぎに長野で空き巣に入った足で、東京に向かい、次の事件を起こしたのである。
検察側は無期懲役を求刑したが……
公判で争点となったのは、加藤さんの死因だった。検察側は「首を圧迫させたことによる窒息死」だったと主張し、無期懲役を求刑した。一方、弁護側は「事件によるストレスで慢性心不全が急激に悪化して死亡した」として、懲役22〜26年の有期刑が相当と訴えた。
東京地裁の守下実裁判長は、弁護側の主張を認め、死因を「慢性心不全の急激な悪化によるもの」と認定した。その上で、主犯格の須江被告に懲役28年、他2人の被告に27年を言い渡した。
検察側は、被告らが加藤さんの頸部を圧迫させたことを示唆する所見として、眼瞼や眼球結膜に高度の溢血点や溢血斑が発現していたと主張したが、判決では「ステロイドを比較的長期にわたって、服用していたことで血管が脆くなって出血しやすい状況にあった可能性がある」と退けられた。
地裁は、頸部の表面に目立った内出血等が見当たらなかったことも重視し、加藤さんが窒息死した可能性はあるとしながらも、慢性心不全で亡くなった可能性を排斥できない限り「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従うべきだとした。
量刑理由で守下裁判長は、「死因の一つの要素である被害者が慢性心不全の状態にあったことは被告人らが知り得ない事情」だったと述べ、先に笹塚で起こした緊縛強盗で被害者に傷害を負わせていなかった点にも言及。その上で、「被告人らが行為に及ぶ際に、被害者を死亡させるリスクを想定するのは容易ではなかった」と指摘した。
また、一連の犯行が短期間で、犯罪で得た収益の取り分の多くを得るべき「上位者」がいたことも考慮した上で、酌量軽減し、有期懲役刑とすべきと判断したと述べた。
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