やり直し裁判が始まる 法廷で「よっしゃー!」と喜んだ「アポ電」強盗犯 一審判決が見誤った“酌むべき事情”

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 9月10日から「アポ電強盗致死事件」の差し戻し審が東京地方裁判所で始まった。21年に東京地裁で3被告に懲役27~28年の判決が出たが、検察側は「無期懲役が相当」と争い続け、23年に東京高裁が差し戻しを命じていた。3被告が全国で起こした7つ事件と1審判決の内容を振り返る。(2021年03月16日に配信した記事を加筆・修正しました)

閉廷直後に響いた男の叫び

「閉廷します」

 裁判長の言葉で、法廷の全員が起立・礼をした直後のことだった。傍聴席の扉が開かれ、傍聴人たちが外に出ようとした刹那、被告人席から雄叫びが聞こえた。

「よっしゃー!」

 叫んでいた男は、つい先刻、懲役28年に処されたばかりの男であった。傍聴人が振り返る。

「みなが唖然としていました。被告は法廷にスーツ姿で現れ、一見、反省したそぶりを見せていましたが、まったく反省していないんだと誰もが思いました」

 3月9日、東京地方裁判所で開かれた「江東区アポ電強盗致死事件」の判決公判での一コマである。「よっしゃー」発言は、即日テレビや新聞で報道されたが、実は男は他にもふてぶてしい態度を見せていた。

「彼は主文言い渡しの直後に、証言台で裁判長に対し、90度深々と礼をしてから『っした!』と叫んでいました。“ありがとうございました”の語尾だけを強調した、居酒屋店員が客を威勢良く見送る時のような言い方です。被告は彼を含めて3人いましたが、叫んでいたのは彼だけでした」(同)

世間を震撼させた「アポ電強盗」

 法廷で遺族感情を逆撫でするような態度を見せた男の名は、須江拓貴被告(24)。まずは男が犯した罪を振り返りたい。

 事件が起きたのは、2019年2月28日午前11時頃。須江被告は、小松園竜飛(29)、酒井佑太(24)の両被告と3人で、加藤邦子さん(当時・80)が一人暮らしをしていた東京都江東区のマンションを、宅配業者を装い訪問した。そして加藤さんの手足をラップフィルムなどで緊縛し、口を粘着テープで塞いで抵抗させない状態にして、室内の金品を強奪しようとしたのだ。

 加藤さん宅に押し入る10日ほど前に、彼らとは別の詐欺グループが、加藤さん宅に家族を装い「家に金はあるか」と確認する電話を入れていた。彼らはその情報を元に押し入ったのだが、結局、何も探し出せずに退散したばかりか、加藤さんを死なせてしまったのである。

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