涙を流す「目黒蓮」はフジ月9の新機軸 「海のはじまり」が映し出す現代社会の“リアル”

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「silent」でも大粒の涙

 川口春奈が主演し、目黒が共演した2022年10月期のフジ系木曜連ドラ「silent」でも、8年越しに明かされた別れの真実を打ち明けるシーンで、2人は大粒の涙を流した。視聴者から「こんなに泣いたのは久しぶり」などの声が殺到。目黒は徐々に耳が聞こえにくくなる若年発症型両側性感音難聴を患う若者という役柄を、繊細にこなし評価を高めた。「海のはじまり」はこの「Silent」の脚本家・生方美久氏、風間太樹監督、村瀬健プロデューサーが再集結して作り上げた作品だ。

 各局のドラマを考察しているフジテレビ関係者がこう指摘する。

「日本のドラマの男性主人公が泣かないのはなぜか、という社会学的研究があるそうです。それによると、男性が男性らしい役割を果たすべきだという期待は、男性に対する社会的圧力や、感情的な弱さを見せることへの恐怖を生む可能性があるといいます。

 だからこそ、『半沢直樹』『VIVANT』の堺雅人や『ドラゴン桜』の阿部寛などは、マッチョな感情を爆発させることで視聴者を引き付けてきましたし、それが最大の魅力でした。一方、『海のはじまり』で目黒演じる夏は言葉をじっくり選んで遠慮がちに話します。風景もどこにでもあるような平凡なものです。物語は夏のペースと日常の街並みに合わせるかのようにじっくりと進んでいきます」

 ドラマの男性主人公が涙を見せることは、伝統的な男性像に反すると考えられることがあるし、泣くことが弱さの表れと見なされがちだ。はっきりしない夏は確かにじれったい。ただ、そう感じてしまうのは、従来のドラマに登場しがちな強い男性主人公に慣れてしまっているせいかもしれない。夏の優柔不断な姿こそ、生きづらい現代社会に生きる多くの男性たちのリアルに近いのではないだろうか。

 今後のドラマ制作についてはこう続けた。

「予算が民放ドラマの3倍から5倍以上というNetflixドラマと同じことをするのは、今の民放の台所事情を考えると極めて厳しい。しかし、『海のはじまり』のようなスローペースなドラマは派手なアクションやセット、エキストラを必要としないのでコスト削減にもつながります。アメリカ系サブスクドラマとの差別化を図るためにも、フジは生方脚本のように登場人物の感情を丹念に描く一方で、撮影予算を削れるドラマ作りを考え出したのでしょう。

 何もNetflixやTBS日曜劇場のように、莫大な予算をかければ良いとは限りません。今回、生方作品を月9にもってきたところにフジの決意と先見性を感じます。TVer限定スピンオフドラマ『兄とのはじまり』と合わせての見逃し配信は累計5200万再生となっていて、高く評価されるべきです。今作でフジは新たな鉱脈を掘り当てたのでは」

 主人公の夏と亡くなった元恋人の家族らが、複雑に絡み合う「海のはじまり」には人生のリアルがしっかり詰まっているからこそ引き込まれていく。“男性の多様な感情表現”が今後のドラマ制作のキーワードになるのかもしれない。

デイリー新潮編集部

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