「転倒は要介護の引き金に」 高齢者のQOLを下げる「転倒」を防ぐために…簡単にできる「ながらトレーニング」

ドクター新潮 ライフ

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外出や、動くこと自体を控えることにも

 もちろん、若い人も転ばないわけではありません。しかし、高齢者の転倒とは「重み」が決定的に異なります。筋力やバランス能力が衰えていない若い人は、よろけたとしてもとっさに踏みとどまることができたり、転んだとしても体が柔らかいためダメージの少ない転び方ができたりします。

 高齢者はそうはいきません。よろけたらなかなか踏みとどまることができず、転倒する時も、手が出て地面につけたとしても手首を骨折したり、手も出ずそのまま地面に打ち付けられて股関節骨折というケースが多いのです。

 股関節は足の付け根にあるため、骨折すると歩けなくなり寝たきりに直結しやすい。また、手術などで骨折は治癒しても、その間、安静にしていたせいで筋力などが衰えて心身の機能が低下する廃用症候群になり、結局は寝たきりとなってしまう場合もあります。

 さらに、転んでしまった経験から、再び転びたくないという恐怖心によって転倒後症候群になる人もいます。外出や、動くこと自体を控えることになってしまい、さまざまな障害を併発してしまうのです。加えて、外出しなくなることによって筋力が低下し、ますます転びやすくなるという悪循環も生まれてしまいます。

理想を実行するのは至難の業

 従って、人生後半のQOLを維持するのに欠かせないのは、できる限り転倒を防ぎ、転んでしまったとしても骨折しないようにすることといえるわけです。

 そのためには、総合的な対策が必要です。ストレッチをして、筋トレを行い、骨を強くするべく魚類やきのこ類に豊富に含まれるビタミンDの摂取を心がけ、筋肉の源となるタンパク質が多い肉類や乳製品も積極的に取る――これが、いまの時代に求められる、あらゆる面から考えた転倒防止対策です。

 しかし一方で、これが「理想論」であることもまた事実です。

 スクワットに励み、お風呂上りのストレッチを日課とする……。できるに越したことはありませんが、忙しすぎる現代人にとって、この理想を実行するのは至難の業です。現実的には、完全にリタイアして時間の余裕がある人はともかく、ほとんどの人にとって、実行はほぼ不可能といえるのではないでしょうか。

 斯(か)く言う私自身も、正直に言って毎日スクワットなんてやれません。ジムに通って体を鍛えるのも理想的だとは思いますが、そんな時間は取れません。率直に言って、そうした努力を続けるのはイヤですし、無理です。もし1時間、暇ができたら何をしたいですか? 私だったら、サウナに行ってリフレッシュするか、寝たい。人間、そういうものですよね。

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