「28年経っても涙が出ます…」 未解決「上智大生殺害事件」 被害者の親友が胸に抱き続けた思い

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運命の仲良し3人組

 順子さんと初めて会ったのは1992年の秋だった。上智大学外国語学部英語学科の指定校推薦枠で行われた面接会場でのことで、順子さんは隣の席に座っていた。

「緊張するね」

 後に親友になるカナさん(仮名)も近くに座っていて、なぜかその2人だけは覚えていた。ところが推薦入試に落ちてしまい、その後、同じ学科の一般入試の日に、2人に再会する。

「推薦に落ちてたんだ」

 昼食をともにした順子さんの受験票に「葛飾区柴又」と書いてあったのがたまたま見えてしまい、「あの寅さん(映画『男はつらいよ』の主人公)の柴又だ!」と思ってさらに印象が強まった。エリさんは合格し、入学式に出席すると、そこでまた2人に再会した。3人全員が合格していた。運命を感じた仲良し3人組の学生生活が始まる。

「順子はとっても頑張り屋さんです。やりたいことに努力を惜しまない。帰国子女が多いクラスで授業も大変そうでしたけど、しょっちゅう図書館で勉強して着実に実力をつけていきましたね」

 3人は、中学生に英語を教えるボランティアサークルに所属した。順子さんに誘われて入ったのだ。夏休みに行った新潟県の中学校では、合宿中のこんな思い出が懐かしい。

「順子も私も怖がりなんです。夜に1人でトイレに行けないので順子と一緒に行きました。トイレの中で独りぼっちを感じさせないよう、外で待っている方が歌うっていうルールがいつの間にかできたんです。順子はカラオケが大好きで、歌がうまかった。留学から帰ってきたらボイストレーニングを受けようと思っていると」

 順子さんは4年生の秋から米国のシアトル大学に留学する予定だった。しかし、その出発の2日前に帰らぬ人となった。

「嘘だから安心してね」

 告別式までの期間、エリさんは棺の周りに供える花の手配などを担当した。斎場で泣き崩れるカナさんの肩を抱き、「これは嘘だから安心してね」と真顔で言っていたと後に聞かされたが、全く覚えていない。

「私の言葉を聞いたカナは、『この子は大丈夫?』と思ったみたいで。当時はちょっとおかしくなっていたんだと思います。現実を受け入れられなかった。そもそもなんでこんなことになっているんだろうと」

 通夜では同級生たちに一言ずつメッセージを書いてもらうため、受付のところにそれ専用の紙も準備した。

「何か事件の手掛かりになることが書いてあるかどうかという視点で1枚、1枚、読みました。その後、棺の中に入れました」

 告別式には、あふれんばかりの人が参列した。終わると否応なく日常に引き戻された。学校に行っても順子さんはもういない。でも元々は留学でいなくなっていたのだと自分を納得させた。

 順子さんの自宅に保管されていた写真はほとんど焼けてしまったため、同級生から預かったものも含め、順子さんが写っている写真が入ったアルバム2冊ほどを遺族に届けた。

 警視庁の捜査員による事情聴取にはできる限り協力した。迎えの車で亀有署に何度も通い、知っていることは全て話した。当初は早期解決が期待され、「ホシが上がったら打ち上げ呼んであげるから」と温かい言葉を掛けてくれた。

 だが、打ち上げはいつまで経っても開かれなかった。

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