理工系学部に急増する“女子枠”に違和感… 「男子高に女生徒を」と矛盾していないか

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理工系への興味を喚起することが大事

 理工系学部に進学する女性が少ない最大の理由は、いまなお社会に残る根強い偏見だろう。放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』では、日本ではじめて女性として弁護士、判事、裁判所長となった女性をヒロインに据え、女性がこうした世界に進出し、キャリアを築くことが、いかに困難であったかを描いている。女性にとってもこうした障害は、かつてにくらべればかなり少なくなったとはいえ、消えたとは到底いえない。

 今日の小中学生に対しても、「女の子だから勉強ができなくてもいい」「頑張らなくてもお嫁にいけばいい」という声が聞かれる。大学受験を前にすると、「東大なんかに行ったらお嫁に行けない」「女の子だから浪人はダメ」「女の子は地元に残ったほうがいい」などと、足を引っ張られることがある。

 同様に日本では、女性は理工系に進むものではないというバイアスが存在するものと思われる。東京大学の横山広美教授の調査によれば、男女平等意識が低い人ほど、「看護学が女性に向いている」「機械工学は男性に向いている」といったイメージを強く持っているという。

 したがって、理工系学部に進む女性を増やすためには、社会に根強く残るこうしたバイアスを解消し、男女の別なく自分の関心にしたがって進学先を選ぶように導くことこそ必要だ。大学入学前に理工系学部への興味や関心を募る、それ以前に、中学生の段階から理数系の科目のおもしろさを地道に伝える、といったことも欠かせない。

 そうはいっても、『虎に翼』のヒロインが弁護士になった戦前に強烈に存在し、いまも根強く残る偏見がすぐに消えるとは思えない。その意味では、理工系学部の女子枠は必要悪といえないこともない。だが、そうであるなら、「公的機関が性別に基づき異なった取扱いをなすのは大問題」といった声に対して、合理的な説明を用意することだろう。

 女子はこれまで差別されてきたのだから、特別枠をもうけても構わない。だが、男子校が女子を拒むのは、男女共同参画や多様性の面からも認められない――。そういう二枚舌の社会はきわめて不健全である。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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