壮絶な兄弟ゲンカで解散した「オアシス」が再結成 ロック・バンドが揉める理由はいつの時代も「金」「女」「エゴ」

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

矢沢永吉の赤裸々な告白

 ここまで海外のバンドについて述べて来た。彼らは不仲のことやバンドが分解していくプロセスを具体的に語っている。そもそもドラッグや女性関係もオープンにする人たちだから、不仲程度のネタはオープンにして当然なのかもしれない。その一方で、日本人アーティストはネガティヴなことはほとんど語らない。

 長年、この業界で働いていると「音楽性の違いと言っているけど、実は女性の奪い合いだったんだ」「実は信仰の問題があって……」という類の「実は……」という話を耳にすることはあるのだが、あくまでも噂のレベルで終わることが多い。当人たちが公表しないからだ。人間関係の問題などは外に語るものではないという意識が強い。

 それでも例外はいる。矢沢永吉だ。その著書『矢沢永吉激論集 成りあがり』『アー・ユー・ハッピー?』(ともに角川文庫刊)でバンド、キャロルのメンバーの心が離れ、解散にいたるプロセスを詳細に述べている。

 キャロルについて、矢沢はメンバーやプロデューサーのミッキー・カーチスについて辛辣に語っている。

「オレが思ってたほどまわりが真面目じゃなかった。ミッキー・カーチスもそう。フォノグラムも…。考えてみたら、オレというのは、最悪の連中とやってたね」(『成りあがり』より・以下同)

 キャロルはギャラをメンバー4人で均等に分けていたが、矢沢は詞を書きギターを演奏し歌うジョニー大倉にアドバイスしたという。

「ジョニー、おまえ、いま作詞印税が入ってきてる。金ってのは怖いから、十円儲けたら一円使え。一千万円儲けたら、百万か二百万使え。あと六百万は着実に貯金して、二、三百万は生活費に充てろ。金ある時にパッパパッパ使ったら、いざ必要になった時に、金がないよ」

 しかし、ジョニーは受け容れなかった。

「永ちゃんに言われる筋合いはない」

 正論ではあるが……。

 結局、バンドは解散へと向かっていく。

 解散に際してキャロルは何度も話し合いを重ねたという。矢沢との溝が深まった3人は一刻も早く解散したい。矢沢はソロの準備をしながらも、ファンのためにもけじめのライヴを10本以上やると主張した。平行線だった話し合いが決着したとき、矢沢はみんなに「どうもありがとう」と頭を下げた。しかし、内心は違ったようだ。そのくだりは秀逸だ。

「その時、オレは何を誓ったか、言おうか。絶対、こいつら許さないと思った。彼らを許さないとしたら、どうすればいいか。オレが、とんでもないスーパースターになることだ」

 貯めたお金で矢沢はキャロル解散後にロサンゼルスでレコーディングした。ほかのメンバーはお金を使ってしまっていた。彼らの場合は「金」が理由というよりは、金を巡って人生観の違いが露呈したことが理由だったと言えるだろうか。

 その後矢沢は今日のレジェンドへの道を上っていく。結局、その後、キャロルのメンバーが一堂に会する機会はなかった。

 バンドは生きものだ。生きものだから新陳代謝をくり返す。それが時には喧嘩や解散という形をとることもある。

 一方で、オアシスのように再会するケースもある。そのようなプロセスで、アーティストは進化を遂げていく。

 再び集結したオアシスの新しいサウンドを早く聴きたいものである。

神舘和典(コウダテ・カズノリ)
ジャーナリスト。1962(昭和37)年東京都生まれ。音楽をはじめ多くの分野で執筆。『不道徳ロック講座』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。