事故の目撃情報も記者ではなくAIがキャッチ…“報道の機械化”のウラで「AIにできないこと」とは

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 ChatGPTなどAIが発展していく中で、今後メディアやニュースの形はどう変化していくのだろうか。その中でユーザーはどんな情報を信頼すればいいのか。「報道の機械化」を掲げ、AIを用いた情報サービスを展開する報道ベンチャー「JX通信社」代表の米重克洋氏に聞いた。

“プレースタイル”がまったく違う

「いまのメディアの問題はこれまで人海戦術でコストをかけた取材をしてきた中で、紙の部数が落ちてきたことです。ウェブ上で同じやり方をしていても、以前ほどに稼げなくなっている、ここが最大の問題です」

 と米重氏は語る。
 
 例えば、主要新聞の発行部数は近年右肩下がりだ。日本新聞協会の統計によれば、2003年に一般紙の発行部数は約4728万部だったのが、23年には2667万部と半減近く部数を減らしている。この間、新聞社の支局は人員が減るだけでなく、支局そのものが廃止されたり、そうでなくても夕刊の配送がなくなったりした地域もある。部数が減って売上が上がらない中、いかにコストをかけずに取材をするか、は課題の一つだ。

 JX通信社はAIを活用した情報サービス「FASTALERT」を展開している。事件や事故、災害が発生した場合、AIを用いてSNSに流れる情報を即座にキャッチし、契約社に提供するというもの。収集する情報の種別は契約社側で選ぶことができ、例えば、災害に特化して情報を集めることも可能だ。

「2016年9月にリリースしてから、国内キー局すべてと主要新聞社、共同通信社など、多くのメディアにご利用いただいています。また、メディアだけでなく、自治体や消防などの公的機関でもご利用いただいています。私どもは報道の機械化と呼んでいますが、かねて報道の世界にテクノロジーを導入していくべきだと考えてきました。紙の報道の世界では取材し、厳選した情報を読者に届けるというスキームだったのが、ウェブの世界では膨大な量のニュースを流していきユーザーの側に取捨選択してもらう形式に様変わりしました。つまり、紙とウェブでは報道の“プレースタイル”がまったく違うのです。なんでもかんでも人海戦術で高いコストをかけてやるのではなく、情報を集めるなど、ニュースのタネを集めるベースの部分をいかに機械化してコストを抑えていくか、というのが重要だと思います」

AIは“問い”が立てられない

「FASTALERT」は人間が行っていた取材を代替していることになる。

「事故や事件などの一次的な目撃情報はこれまで警察や消防、あるいは現場に記者が行って情報を集めていたわけですが、これにより、バーチャル記者のような形でAIが情報をキャッチすることができます」

 さらに今後、AIが進展していくと、ニュースの世界も変わっていくだろう。人間ではなくAIが作成するニュースというのも増えていくことになる。

「すでにそういう状況は生まれつつあります。ただ、ここで重要なのは、AIに何ができるのか、ではなく、人間に何ができるのか、ということだと思います。例えば、AIは“問い”が立てられません。こういう事象の中に明らかにすべき問題が潜んでいるのではないか、とAIが問題設定をして解いていくことはできないので、そこは人間が取材すべきことだと思います。機械でできることは機械に任せて、人間にしかできないことは人間がやっていく。そしてそこで生まれたコンテンツにいかにお金を払ってもらうか、そこをクリアにしていけば、メディアの未来は明るいのではないか、と思っています」

 メディアの成功例として、米重氏は通信社のブルームバーグを挙げる。ブルームバーグは、マイケル・ブルームバーグが1981年に設立。ブルームバーグ端末と呼ばれる企業向けの金融情報端末などを手掛け、巨大企業へと成長した。

「ブルームバーグは『報道』を定義し直したと思っています。情報を売るだけでなく、その情報が企業の課題解決につながるように、データ提供サービスや端末の販売を手掛けている。情報をサービスとして捉え直したのです」

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