小中学校の夏休み「日数」も「宿題」も減少の動きあり 教員と家庭の負担軽減のはずが思わぬ“落とし穴”も

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教員からの「反対」の声

 とはいえ、当然ながら“良いこと尽くめ”ではない。

「一昔前に比べて気温が格段に上がっていますから、この猛暑の中で学校に通わせることの危険性を指摘する声もあります。実際、すでに夏休みを10日ほど短縮していた広島県福山市は、子どもの健康を重視して元の日程に戻すことも検討しているとの報道がありました」

 さらに、

「教員にとって夏休みは、事務作業を済ませつつ、来期の授業の準備や教材の整備を行ったり、研修に参加して研鑽を積んだりする大切な期間でもあります。また、教員が有給休暇を自由にとれるのは、夏か冬の長期休みの間くらいしかないという実態もある。それだけ重要な期間が減ってしまうとあれば、ただでさえ問題視されている『教員志望者の減少』に、拍車がかかる可能性も否定はできません。現に、『夏休み短縮』に対して反対する教員らの声は高まっている印象を受けます」

 そもそも、教員の仕事量が多すぎることが問題の本質であるともいえる。そこにメスを入れない限り、負担を分散しているだけで、根本の解決策とは言えないのだ。

「掃除から部活動、放課後の問題対応まで、日本の教員が担う範囲が広すぎる問題もありますから、海外のように日本でも『分業』を進めていく必要はあるでしょう。それに加え、現行の学習指導要領の授業時間が多すぎるのではないか、という指摘もあります。いまは、土曜に授業があった時代と同じコマ数を平日5日間で消化しなければならなくなっているので、児童・生徒も教員も大変ですよ。だからといって、『じゃあどの科目のどこの箇所なら削っていいのか』という話に万人が納得する答えはないため、結局は授業数自体を減らすのも容易ではない。総論は大多数が賛成するような話でも、各論の議論が難しいのが、学校教育なんです」

「宿題廃止」の学校も

 一方、減るのは「日数」だけではない。夏休みの宿題を減らす動きもまたじわじわと広がりつつあるという。

「個々の子どもの特性や習熟度に応じた学びを重視する傾向から、一律の宿題を減らそうという動きがあるのは事実です。一部では、夏休みの宿題を完全撤廃した小学校まで出てきています。受験を見据えた勉強をしたいご家庭もあるでしょうし、のんびり自由に過ごしたいご家庭もあるでしょう。いまはタブレットなどでも様々な学びができます。一律のドリルや読書感想文を課さないというのは、時代にあった施策だと思います」

 全体的な学力への影響も気になるが、

「宿題という一定の強制力をもった学習がなくなると、ご家庭で勉強をサポートする負担が増えるという見方もできますし、あるいはケアしきれず、『勉強を一切しないまま放置』という子どもが出てしまうことも想定されます。自主的に学べる子どもと、そうでない子どもとで、学力格差が一層広がる懸念はあります」

 まさに一長一短。子どもにとっては喜ばしい取り組みのように思えるが、全国的に「宿題ナシ」が定着する日も来るのだろうか。

 とまれ、夏休みの「日数」も「宿題」も減っていくという、一昔前には想像もできなかった現象が、現実に起こり始めている。

「いずれも『ただ減らせばいい』という簡単な話ではありません。少なくとも我々大人が経験した『夏休み』とは、社会環境が大きく変わってきていることを理解して、各自治体や学校の取り組みに目を向けていく必要があると考えます」

デイリー新潮編集部

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