移民の積極的な受け入れで「失敗」したドイツ 対策強化をしなければ、移民排斥暴動が発生した英国の二の舞に

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ドイツの労働力不足はさらに加速

 ドイツ政府は8月29日、公共の場などでのナイフの使用規制や難民申請の規制強化等を含む治安対策を発表した。翌30日には、ドイツで有罪判決を受けたアフガニスタン国籍の28人を強制送還する動きにも出ている。

 だが、政府の難民規制の強化に産業界は困惑していることだろう。国内の労働力不足を難民などで補う取り組みに水を差すことになってしまうからだ。

 ドイツの労働力不足はさらに加速することが予測されている。独ケルン研究所(IW)は、2027年に72万8000人の労働者が不足するとの推計を発表した。特に深刻な分野は小売りや保育、福祉などで、IWは「移民受け入れで対処する必要がある」と主張している。

 労働力不足のせいで、ドイツの人件費は上昇圧力にさらされている。独ハンス・ベックラー財団経済研究所は「今年の実質賃金は前年比3.1%増と過去10年超で最大の伸びとなる」との見方を示した。

 人件費の上昇はインフレを再燃させるリスクをはらんでいる。

 ドイツ連邦銀行は「賃金圧力が引き続き強いため、コアインフレ率(価格変動が大きい食品やエネルギー価格を除外したインフレ率)が高水準にとどまる公算が大きい」と、年末にかけてのインフレ再加速を危惧している。

ドイツも英国の二の舞になるのか

 エネルギー価格の高騰などが災いして企業の海外移転が進むドイツは、「欧州の病人」に逆戻りした感が強い。

 第2四半期の国内総生産(GDP、改定値)は前期に比べ0.1%縮小し、独IFO経済研究所によれば、8月の業況指数は86.6と3ヵ月連続で低下した。製造業の状況が一段と悪化するとともにサービス業も悪化している。

 第2四半期の商業用不動産価格が前年に比べて7.4%下落するなど、不動産バブルの崩壊も起きている。ドイツは主要国の中で「スタグフレーション(景気が後退する中でインフレが同時進行する状態)」に陥る危険性が最も高いのだ。

 社会心理学の知見によれば、経済状態が悪くなると人々の「差別」感情が強くなるという。特に顕著なのは失業率が上昇した場合だ(8月25日付THE GOLD ONLINE)。

 ドイツの8月の失業率は6.0%と横ばいだったが、労働市場に今後、経済停滞の影響が出るのは時間の問題だろう。英国では政府が移民規制に乗り出していたにもかかわらず、8月上旬に偽情報の拡散が発端となり、移民排斥を求める大規模な暴動が発生した。

 労働力不足以上に心配なのは国内の政情不安だ。主要政党が移民対策の強化に舵を切らない限り、ドイツは英国の二の舞になるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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