自民総裁選に「カバン・看板・子分」ナシで挑戦 「齋藤健経産相」はなぜいま無謀な戦いに打って出たのか

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 12人の議員が立候補に意欲を示し、大乱戦の様相を呈している自民党総裁選。中でも異色なのが、現職経産相ながら出馬を目指している齋藤健議員だ。齋藤氏は当選5回の65歳。農水大臣を務めた後、不祥事で辞任した大臣のピンチヒッターとして法相、経産相に抜擢されるなど安定感には定評がある中堅議員である。しかし、これまで総裁選を目指して仲間を作ってきた形跡もなく、国民的な知名度も高くない。そんな齋藤氏が、今回なぜ無謀に見える戦いに挑もうとしているのか。本音を直撃した。【青山和弘/政治ジャーナリスト】

今の自民党への「怒り」

――齋藤さんはなぜ今回、立候補に向けて動きだそうと思ったんですか。

 それはまず、今の自民党への「怒り」です。私は2006年に落選してから地獄のような浪人生活を経て、2009年に初当選したんですけれども、その間どんなに生活が苦しかろうと、政権交代の逆風が吹こうと、「自民党しかない」と歯を食いしばって活動して議席をいただきました。ですが今の自民党は、私が死に物狂いで憧れた自民党ではない。

 率直に言って私は、派閥の政治資金パーティー問題に事実上責任がある議員たちの立ち居振る舞いには、どうしても納得がいかない。これでは国民の理解は到底得られないと思ってきました。私は党が一度決めた処分を、今からひっくり返すべきだとは思いません。処分は最も重い組織の判断ですから。ただ国民の理解を得るための努力を、個々の議員も自民党全体も、今後とも必死に続けないといけない。

 またこれを機に、自民党の若い議員の能力をアップできるような組織改革をやりたい。そして誰にお願いしたからとかではなく、適材適所でポストに処遇される環境を整えたい。その結果として自民党や政権を強くしていきたいんです。このように国民の信頼を取り戻す、党の体質を変えるチャンスは、今しかありません。これがまず一つです。

将来を嘱望される中堅議員からの支持

――二つ目はなんでしょう。

 それは政策面、特に経済政策です。日本は30年ぶりにデフレから脱却して新しい経済ステージ、つまり投資が伸び、賃金も上がり、物価も多少上がるという上向きな経済に転換するギリギリの局面に来ています。この機を逃せば未来永劫チャンスを失うかもしれない。また産業政策では、アメリカも中国もヨーロッパも自国の産業にとてつもない額の政府資金をつぎ込む政策競争が始まっています。日本も頑張って半導体で世界と勝負をしようとしています。ここからさらにどういう施策を打っていくかが、日本の将来に大きく影響します。

 そもそも日本は食料も資源もエネルギーも全部輸入しなくちゃいけないのですから、稼がないと存在が危ぶまれます。稼がなければ財政再建もできないし、社会保障の充実なんて夢のまた夢です。そして強い経済のメリットを多くの人や、次の世代に生きる人たちも享受できるシステムを作る。私は通産官僚時代から日米通商交渉に関わって忸怩たる思いもしてきましたし、経済政策に自民党議員の中で最も強い信念を持っているという自負があります。党改革も経済政策も今しかない。だから自分が立候補するのも今しかないと思い定めたんです。

――私の取材ではそんな齋藤さんを、小渕優子選対委員長や木原誠二幹事長代理、古川禎久元法相など、自民党で将来を嘱望される複数の中堅議員が支持しています。有力候補とはいえないのに不思議な現象に見えます。

 これには私も本当に驚いていますし、感激しているんです。敢えて言えば、若手議員は目先の選挙や世話になった先輩議員などに拘束されがちです。一方でベテラン議員は、今後の自分のポストや立場を気にする人が多い。ところが選挙も強い中堅議員たちは、そういうしがらみから比較的自由で、自分の力で判断できるんじゃないかと感じています。このままで自民党はいいんだろうか、日本はいいんだろうかという危機感を持つ中堅議員の皆さんから期待する声を頂いたのも、今回出馬を決意した理由の一つです。

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