ウクライナ「越境攻撃」にプーチン大統領が“不気味な沈黙”を貫くワケ 専門家は「ロシア軍の罠に引っかかった」可能性を指摘

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ウクライナの戦術的敗北

「なぜ、ゼレンスキー大統領とウクライナ軍上層部はセオリーを無視して越境攻撃を指示したのか。Forbesは、あくまでも推測としてですが、『ウクライナ軍は越境攻撃を仕掛けることで、ロシアが東部戦線に投入している一部の部隊をクルスク州に向かわせようとしたのではないか』と書いています。自分たちも戦力を分散させることで、ロシア軍の戦力も分散させ、東部戦線の猛攻を少しでも減らそうと考えたというわけです」(同・記者)

 だが、ロシア軍の動きは鈍かった。Forbesによると《練度の低い若年の徴集兵多数を含む雑多な兵員をかき集めて侵攻に対抗させることにした》という。このためウクライナ精鋭旅団は進撃のスピードこそ落ちているが、依然として前に進んでいるようなのだ。軍事ジャーナリストが言う。

「こうしてロシア軍は東部戦線で猛攻を続け、ウクライナ軍は越境攻撃で進軍を続けるという奇妙な戦況が出現してしまいました。しかし戦況を巨視的な視点で分析すると、やはりウクライナ軍が不利だと言えるのではないでしょうか。まず地図を見れば、ロシア軍が実効支配しているウクライナの領土に比べて、ウクライナ軍が“占領”したロシアの領土はあまりに小さいことが分かります。しかも要衝であるとか地下資源が豊富とか、戦略的に重要な地域ではありません」

ロシア軍の合理的な判断

 ウクライナ軍はクルスク州の現地に司令部を置き、占領する姿勢を見せている。ある意味、戦闘より占領を行うほうが“コスト”は高い。

「クルスク州に展開する精鋭旅団に補給を行うだけでも大変です。おまけに現地のロシア人に睨みを利かせる人員も必要ですし、場合によっては行政サービスを提供する必要もあります。兵站の関係から、どれだけ最新の装備を持つ精鋭部隊とはいえ、延々とロシア国内に侵攻することは不可能です。ロシア軍を連戦連勝で撃破したとしても、必ずどこかで進軍を止める必要に迫られます」(同・軍事ジャーナリスト)

 一部報道によると、ウクライナの精鋭部隊がロシアの国境線へ侵入した際、守るロシア兵は新兵ばかりで、おまけにスコップしか持っていなかったという。

「ロシア軍は越境攻撃を仕掛けてきたウクライナ軍に対し、まともに戦おうとしていません。これは実のところ、合理的な判断ではないでしょうか。放っておいても、いつかウクライナ軍の越境攻撃は兵站の関係で進軍が止まるのです。ならば相手にはせず、東部戦線に戦力を集中させたほうが得策だと考えている可能性があります。たとえクルスク州全土を失ったとしても、ロシアにとっては広大な領土のごく一部に過ぎません」(同・軍事ジャーナリスト)

狡猾なロシア軍

 ロシア軍にとってクルスク州の敗北は痛くも痒くもない──。

「ロシア軍がクルスク州でウクライナ軍の進撃を許しているのは、実は狡猾な“罠”なのではないでしょうか。ロシア軍は東部戦線に兵力を集中し、重要拠点を一気に落とすことを最優先にしているようです」(同・軍事ジャーナリスト)

 もしウクライナ軍が東部戦線で敗北し、次々と重要拠点を失うような事態になれば、さらに事態は紛糾するかもしれない。

 何しろゼレンスキー大統領は軍の一部が反対するのも強引に退け、越境攻撃に全てを賭けたと報じられている。その判断ミスが問われるかもしれない。

デイリー新潮編集部

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