老いては煩悩に従え! 「不倫バッシング」で日本が衰退するワケ【和田秀樹×池田清彦】

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 近頃、日本の男性は元気がない。コンプラにポリコレ、健康常識に老後設計……時代の変化と社会の要請に揉まれ、オスとして大切な何かを失いつつあるらしい。

 オスがオスらしく生きるためにどうあるべきなのか、その答えの一つは「男性ホルモン」にあるという。メディアでもすっかりおなじみ、和田秀樹さん(医師)と池田清彦さん(生物学者)に話を聞いた。

※本記事は、和田秀樹氏、池田清彦氏による対談『オスの本懐』(新潮新書)より一部を抜粋・再編集し、全2回にわたってお届けします。

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「ダメ尽くし」で長生きしても楽しいのか

和田秀樹(以下、和田) 若い頃に比べて「気力が落ちた」と感じるのは多くの場合、男性ホルモンの減少が背景にあります。裏を返せば、「色めいたこと」への関心を下支えする男性ホルモンは生きる活力そのものだということです。

 80歳でエベレスト登頂を果たしたプロスキーヤーの三浦雄一郎さんは、男性ホルモンの一種テストステロンを打ち続けたことで筋肉量が増え、体力を回復できたそうです。これは三浦さんの主治医である熊本悦明先生(札幌医科大学名誉教授)の勧めとのことで、熊本先生ご自身も亡くなる直前の92歳まで現役医師を続けられた。男性ホルモンという名称がよくないので、「元気ホルモン」に変えるべきだと主張されていましたね。

池田清彦(以下、池田) 男性ホルモンのおかげで活力も出るし、面白く生きられる。

和田 そうです。男性ホルモンの数値が下がると、ロクなことになりません。気力が落ちるだけでなく、人づきあいが億劫になってくる。男性ホルモンが減少すると異性への興味がなくなるとよくいわれますが、それだけでなく、人間そのものに興味がなくなってしまうんです。加えて記憶力が低下、筋肉が落ちて脂肪がつくので健康にもよくない。

 つまり、歳をとればとるほど「性的に枯れないこと」が重要になるのに、ほとんどの日本人はそういう「本当のこと」について話そうとしない。逆に、いい歳をした男が色を好むなんて、「年甲斐もないバカ」みたいに蔑まれる風潮さえあります。

池田 「スケベじじい」ってね。でも艶っぽいこともダメで不倫もダメ、健康のために酒もタバコもダメ。ダメ尽くしで長生きできたとしても、一体なんのために生きてるのかね。

和田 元気ホルモンという意味では、歳をとっても男性ホルモン数値をある程度キープできている人は要介護状態に陥りにくいのです。では、日本がそういう健康寿命を延ばす施策を考えているかというとまったく逆で、むしろ「オス」を痛めつけ、どんどん弱らせるようなことばかりです。日本は先進国の中で無修正のオトナ向けの動画が解禁されていない唯一の国で、若い世代はパソコンやスマホでなんでも探し当てられても――。

池田 年寄りは苦労するだろうね。ITにくわしい人ならともかく、ネットに疎い人はアダルト向けの雑誌やビデオなんかを実際に店で買わないといけない。

和田 意識的に男性ホルモン分泌を上げて元気を出さないといけないシニア層が、その一手段である性的な動画にアクセスできない。これは「老人いじめ」では。

池田 そういう動画があると聞いて、それなら自分も観てみようと慣れないパソコンをいじるうちにヘンなサイトに引っかかって、架空請求にあう老人も少なくないとか。

和田 実際に詐欺被害にあっても、性的な動画だなんて口が裂けてもいえないでしょう。友人、まして妻や子どもに相談できるはずもないから泣き寝入りするしかない。「カモ」の心理を見越した卑劣な詐欺ですね。

池田 歳を重ねるにつれて性欲は減退していくもの、日本ではなぜかそう思われてるので、「スケベじじい」にとってはかなり生きづらいよな。

動画くらい、自由に観られるようにしたらいい

和田 おっしゃる通り、日本には「スケベじじい」を嗤うというか、バカにして蔑む風潮が強いですね。数年前、新宿歌舞伎町のマンションの一室で無修正のオトナ向けDVDを売っていた業者の摘発が報じられた時は、まるで極悪人みたいな扱いでした。

 でも、ネットにアクセスして観られない老人向けに今どきDVDを焼いて売るだなんて、そこは「人助け」になっていた部分もあったんじゃないかなと。

池田 なるほど、それはそうだ。

和田 警察が踏み込んだ時、居合わせた客のほとんどが80代だったそうで、ニュースではそれも含めて、いい歳をして……とお客をバカにしているようだった。

 でも、かの文豪永井荷風や谷崎潤一郎のように、老いても艶っぽい感性に従う男性は粋だ、という評価がかつては主流でした。渋沢栄一には妻の他に複数の愛人がいて、実子は総勢17人以上。最後の子どもは68歳の時の子という逸話まであり、男の甲斐性として一目置かれた。

 つまり、そこには齢を重ねた男性が活力をキープするという側面があったわけです。もちろん今とは時代状況が違いますが、妾はともかくオトナ向けコンテンツぐらい自由に観られたらいいのに、という話です。とりわけ男性ホルモンの多寡が健康長寿にダイレクトに関わる70代以上は、大目にみてもいいと思うんです。

池田 同感だね。年寄りほど楽しく生きないといけないわけで、相手が嫌がるのでなければ老いらくの恋もいいし、プロが相手をするお店を利用してもいいと思う。

「スケベじじい」をバカにする元気のない国

和田 もともと日本は性に対して概して大らかだったのに、今は真逆になりました。自分の心の声に忠実に生きている男性、歳をとっても色めいた感性を大事にする人をバカにする風潮をみると悲しくなります。

池田 それだけ今の日本に元気がない。その裏返しじゃないかな。

和田 どういうことでしょう?

池田 日本に元気がない、というのは多くの日本人男性、オスたちが元気でないということでしょ。だから、自分より楽しいことや面白いことをしているオスがいると、それが気に食わないわけ。

 昔は、けっこうな齢でも美女を連れ回しているじいさんがいたら、「面白いことをやってるなあ、俺もやってみよう」という具合にモチベーションにもなったのが、今はそんな余裕のあるオスが少なくなった。逆に、女性にモテて人生を謳歌してるような男性を見つけると、とにかく妬んで引きずり下ろすしかないんだな。自分にはできそうもないからそうなる。

和田 どうも男らしくないですね。

池田 だけど、金がなくて女にもモテない男はだいたいそんな風になるものよ。元気のない男が日本中に溢れていて、しかも大多数だから、マスコミも彼らの溜飲が下がるようなニュースを流して視聴率を稼ごうとする。

 有名人の不倫をやたらバッシングするのもそう。どこの誰が誰と寝ていようが、本来、赤の他人に何も関係ない話なのに、延々とゴシップを垂れ流しているのも、根っこにあるのは嫉妬でしょう。

和田 元気な人たちの足を引っ張っていたら、社会はますます元気がなくなります。

池田 悪循環だね。だから、いつまで経っても日本はパッとしない。

 コンプラに縛られない2人の「オス」の話はさらにヒートアップしていき、第2回〈オスが「浮気」するのは自然の摂理? 子孫を残すための戦略が男女で異なる、驚きの理由とは【和田秀樹×池田清彦】〉では「熟女がモテモテ」のニホンザルの社会に光をあてる。

『オスの本懐』(新潮新書)より一部抜粋・再編集。

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