生成AIは漫画家の仕事を奪うか? プロのイラストレーターがあえて「水彩」の練習に励む納得の理由

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生成AIについて語るメリットはない?

 X上で大きな議論になっているテーマのひとつが生成AIである。漫画家やイラストレーターの間では、生成AIについて様々な意見が噴出している。生成AIを創作に積極的に活用すべきだという意見もあれば、絶対反対という意見もある。絵柄のデータを生成AIに無断で学習させている問題が解決するまでは使わない……のように条件付きで反対する人もいる。

 その過熱ぶりを、あるニュースサイトの編集者は、「いわゆる推進派の意見を載せると反対派からバッシングがあり、反対派の意見を載せると今度は推進派からバッシングがある」と話す。しかも、「そのどちらの意見もかなり過激」なのだという。その影響は漫画家にも及んでいる。漫画家A氏は、「生成AIについて何か言えば炎上しそうなので発言しづらいし、コメントしても今はなんのメリットもない」と口にする。

「肯定的な意見を書いても、否定的な意見を書いても、現在のネットの空気感では炎上しかねない。生成AIに疑念を抱いているであろうベテランの漫画家の先生にも、なぜか生成AIに批判的な人から攻撃的なコメントが寄せられている有様です。私も生成AIにはいい印象を持っていませんが、感情的になっている人が多すぎる気がします。味方につけるべき人まで攻撃してしまうようでは、冷静な議論は難しいのではないでしょうか」

 筆者の妻は漫画家であり、筆者の友人知人には漫画家やイラストレーターが多い。漫画家に話を聞くと、生成AIについて「アシスタントがわりに使えるなら使いたい」「気持ち悪いから使いたくない」「俺のほうが上手いからどうでもいい」など意見は様々であり、立場や作風によっても異なる。漫画家などの業界団体が生成AIについて統一見解を出すことが難しい理由が、本当によくわかる。

生成AIのイラストのブームは一過性か

 生成AIについて以前から言われているのが、「漫画家やイラストレーターの仕事を奪うのではないか」という意見である。特に、一枚の絵で世界観を表現するイラストレーターの仕事は、生成AIに奪われる可能性がもっとも高いと考える人が少なくない。なかには、生成AIに出力させたイラストをイラストレーターに送りつけ、「あなたのイラストより生成AIの方が上手いですよ」と嫌がらせをする人までいるという。

 本当に、生成AIによってイラストレーターの仕事は奪われてしまうのだろうか。長年にわたってライトノベルなどの挿絵を手掛けてきた人気イラストレーターのB氏は「少しは奪われる可能性はありますが、すべてはあり得ない」「それほど心配していません」と語る。

「Xで生成AIのイラストに“いいね”が何千件もついているのを見て、“ヤバい”と感じているイラストレーターは周りにもいますよ。けれども、“AI絵師”と言われる人たちのなかから、売れっ子と言えるほど知名度の高い人は出ていません。儲けているという話も聞かない。何より、彼らの絵に“いいね”をつけている人たちは、彼らの絵にわざわざ高いお金を払おうとするでしょうか? 僕は、しないと思います」

 B氏は、生成AIが出力する絵は「みんな顔が同じでワンパターン。全然面白くない」と一刀両断する。そして、「似たような絵しか出せないから、集英社や講談社のような大手出版社の編集者がAI絵師に仕事を依頼するとは思えない。目新しいから話題になっているかもしれないけれど、将来的には“いらすとや”のように、チラシの穴埋めに使われる程度の存在で終わるのではないか」と分析する。

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