東出昌大に感じる「火野正平」的な何か 最高11股 “昭和のモテ男” に通じるところ、違うところ

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「昭和のモテ男」のすごいところ

 彼が詩人・三好達治を演じた「天上の花」(2022年公開)という映画を観たことがある。妻子を捨てて、師事していた萩原朔太郎の妹と再婚、その強すぎる愛によって妻に暴力をふるい、自らを呪うように苦しむ三好達治を、東出は見事に演じていた。演技というよりは、彼の体と魂の叫びのようだった。決して器用な人ではないのかもしれないが、この役を演じるにあたり、彼は三好達治の詩を読み込んで臨んだという。

 そういったエピソードや、現在の山小屋暮らしなどを垣間見ると、外見とも照らし合わせてどうしてもマッチョなイメージしかないのだが、個人的には東出を見ると、どこか「昭和のモテ男」「元祖プレイボーイ」などの異名をとった火野正平さんを思い浮かべてしまう。

 今では「自転車に乗って全国を走り回る、心温まるおじさん」として有名だが、絶好調の時は11股とも噂された。ただ、彼のすごいところは、自分から女性をフったことはないと言い切るところ。常に女性からフラれていた。フラれるように仕向けていたのだろう。

 そしてだれからも恨みを買っていない。むしろ、「彼と一緒にいられるだけでよかった」「彼が私とつきあってよかったと思ってくれれば」などと、関係のあった女性たちは、みんな「いい思い出」として彼を語っている。これぞ、モテ男の真骨頂だろう。女性にだらしないのではなく、自分の欲望に忠実だったし、相手を傷つけるような言葉も残さなかった。女性たちは常に「誠心誠意、愛してくれた」と思ったのだ。そして「彼のために別れた」と言い切るのである。

 役者という仕事にはストイックでプライドをもっているが、女性には弱い。そしてなにより、人として「かわいらしさ」があった。女たらしというより「人たらし」なのだろう。

「漢」であろうとしているが、本当は…

 そんな火野正平は東出とはタイプが違う。違うのだが、東出の背景に、本来の彼は「火野正平的な何か」を持っているような気がしてならない。ほんとうはどっぷり女性に甘えて、グダグダな自分を認めてもらいたいのではないか、それなのに女性の前では無理して「漢」を見せようとがんばってしまうのではないか。年若い女性と再婚したのも、自らを奮い立たせるためなのではないか。

「自然体でしか生きられない」と言われている彼が、これからどんな人生を送り、どんな役者になっていくのかをそこはかとなく楽しみにしている自分に気づく。もしかしたら、「やらかし」も含めて、無骨なのか無頼なのか、はたまた繊細なのかわからないが「何か」を期待させるところが、彼の魅力なのかもしれない。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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