“呼びかけハラスメント”にはもうウンザリ 「水分を補給しろ」「手すりにつかまれ」なんて過保護過ぎやしませんか(中川淳一郎)

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 とことん日本って国は幼稚で他責思考な国だ、と南海トラフ地震騒動で思いました。南海トラフ地震が来るかもしれないから宮崎県の宿泊施設でキャンセルが相次いだり、愛知環状鉄道が一時こんな呼びかけをXでしたりする。

「本日16時43分に日向灘で発生した地震を受け、気象庁から19時15分、『南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)』が発表されました。お客様におかれましては不要不急のご旅行は中止いただきますようお願いいたします」

 なんだよ、不要不急の旅行って。旅行なんて他人からすれば不要不急に決まってるだろうが。しかし、本人からすれば随分前から予約をし、夏休みの楽しみにしていたもの。それを勝手に不要不急扱いするんじゃねーよ。

 それと同時にとにかく日々のニュースや公共交通機関のアナウンスを見ると幼稚で過保護過ぎる。暑い日々が続き、ニュースではこんな呼びかけをする。

「水分・塩分を適宜補給しましょう」「屋外での運動は中止してください」「エアコンは我慢しないでつけましょう」。

 これにXで異議を呈すると「我慢してエアコンをつけない人がいるから注意喚起しているんだろ!」「もしも熱中症で亡くなる方が出たらお前は責任を取れるのか!」と反論が寄せられる。知るか。なんで一番のバカに全員が合わせなくちゃいけないんだ。何が危険で何が安全かなんて、自分自身で判断すればいい。いちいちニュースでやるべき内容ではない。喉が渇いたら水分を補給し、部屋の中が暑いと感じたらエアコンは容赦なくつければいい。

 どうもこの風潮が強まったのは東日本大震災以降ではなかろうか。NHKがその後の地震の際に「逃げて!」や「命を守る行動を」と呼びかけ、高く評価された。ここで各メディアが「とにかく安全・安心な行動を呼びかければいいんだな!」と考えたのでは。

 日本はこの手の呼びかけが多過ぎます。電車のアナウンスの場合、駅名やどちらのドアが開くか、を言うのはいい。ドアについては視覚障害者にとって大事な情報ですね。しかし、ドアに手を挟まれないようにしろ、携帯電話の通話は他のお客様のご迷惑になるのでやめろ、とか、座席は一人でも多くのお客様が座れるように詰めろ、危ないのでつり革や手すりにつかまれ、とかは過保護度合いがひど過ぎる。

 天気予報でも「日差しが強いから日傘を持て」「肌寒くなるので上着を用意しろ」などと言う。これに対して「過保護過ぎるんだよ」と意見すると「親切に助言してくださってありがとう!となぜお前は思わないのか」という反論が寄せられる。

 いやさ、気象庁やメディアになんで自分の行動を指示されなくちゃいかんの? もう、この手の人々は、降雨日は「家を出る時はドアの前に水たまりがないか注意しましょう」とか雪の日は「滑らないよう、滑りにくい靴を履いて外出してください」とかまで求めるのか? 東北・北海道ではそんなの当たり前。

 こう意見すると「注意がなかった!と文句を言う人がいるからだ」と言うが、貴殿が文句を言うタイプだろ(笑)。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年8月29日号掲載

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