“混セ”優勝のカギを握る「中日・高橋宏斗」…いまだ防御率0点台、ライバル球団のエースをなぎ倒す「22歳」の覚醒

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簡単に打ち崩せない投手

 セ・リーグの優勝争いがまた分からなくなって来た。一時は広島が「頭一つ」リードしていたが、8月27日の中日戦を落とし、2位巨人とのゲーム差が「0.0」になってしまった(8月28日現在)。首位・広島に手痛い黒星をつけたのが、中日ドラゴンズの高橋宏斗(22)である。

「広島は8月23日からの阪神3連戦で負け越し、次の中日3連戦で切り替えるべく、カード初日の27日、今シーズン10勝5敗の森下暢仁(27)を先発させるなど、必勝態勢で臨みました。しかし、今の高橋を打ち崩すのは並大抵のことではありません」(名古屋在住記者)

 セ・リーグ優勝チームがどこかを決めるのは、下位に低迷するドラゴンズの高橋かもしれない――そんな周囲の声が現実味を帯びてきた。

 高橋は、27日の試合で広島を7回112球、6奪三振1失点に抑え、リーグ2位となる11勝目を挙げた。先に得点を許したものの、防御率は0.98.規定投球回数にも到達し、両リーグトップに立った。7月は4試合32イニングを投げて無失点。このまま、0点台の防御率をキープすれば、2リーグ制以降では70年の村山実氏以来、54年ぶりの快挙となる。

「しかも今季、まだ1本もホームランを打たれていません」(前出・同)

 規定回数に到達した投手のなかで、被本塁打の最少記録は23年の山本由伸(26=ドジャース)、12年のブライアン・ウルフ(43=当時日本ハム)、56年の稲尾和久氏(当時西鉄)の2本である。こちらも、NPB史上初の偉業達成に現実味が帯びてきた。

「昨季の高橋は中日先発陣の中心的存在ながら、25試合に先発登板し7勝11敗という成績でした。でも、今季はセ各球団とも、オープン戦の段階で高橋はノーマークに近く、ペナントレース開幕後にスコアラーがデータ分析を始めました。ただ、あわてて情報不足を補う対策を講じるも、高橋のピッチングが常にその上を行っているのです」

 セ・リーグ球団スタッフがそうこぼしていた。ノーマークだったのはオープン戦の不振が酷かったからで、その原因は「投球フォーム」にあった。自主トレに帯同し、自身も心酔している山本由伸の「溜め」を作らないフォームを模倣し、“失敗”したのである。厳密に言えば、春季キャンプの段階ではモノになり掛けていたが、立浪和義監督(55)が“ダメ出し”をした。その後、試行錯誤が続き、ペナントレース開幕は二軍で迎えることになってしまった。

二軍で学んだこと

「二軍でも最初は苦労していました。取材陣も完全シャットアウトでした。でも、テイクバックが小さくなって、リリースポイントが少し高くなりました」(前出・同)

 一軍での復帰登板は4月28日。勝敗はつかなかったが、7回無失点と好投した。高橋は「どこが良くなったのか?」と地元メディアにマイクを向けられると、「自分でもよく分からない」と首を傾げていた。「同期入団の松木平優太(21)が頑張っている姿を見て自分も」と思ったそうだが、“気持ち”で投球フォームの悩みが解消されるほど、プロの世界は甘くない。とはいえ、「自分でもよく分からない」「同期の健闘に励まされた」が復活の契機になったのはあながち間違いではなさそうなのだ。

「同期の活躍に触発され、『このままではダメだ』と思い、高橋はフォーム改造に乗り出しました。二軍降格後のフォームは、従来の投げ方に近いものになり、最終的に元の投球フォームに戻った印象です。違いがあるとすれば、リリースポイントがやや高くなっただけです。このままではダメだと向上心を持つことも大切ですが、これまで積み上げてきたものを信じる、原点回帰することも大事だと二軍行きで学んだのではないでしょうか」(チーム関係者)

 また、高橋の独特の感性について、こんな証言も聞かれた。7月30日のヤクルト戦でのこと。7回無死一塁で村上宗隆を迎えた。外角に投じたスプリットが左翼ポール際のファールゾーン・スタンドまで運ばれた。すると、高橋は右腕でバットスイングを真似ながら、三塁を守っていた高橋周平(30)の方に歩き出し、

「何で、あそこまで飛ぶんですかね?」

 と尋ねた。高橋周平は「知らん!」と笑いながら答えた。その村上を抑え、攻守交替でベンチに戻ってきた後も、同じ質問を他の選手にしていたという。

「高橋の脳裏には、前打席の村上のイメージが残っていたようです。内角のスプリットで空振り三振に仕留めており、そのときのバット軌道から、外角に投げた7回のスプリットは絶対に打たれないと考えていたそうです。その説明を聞いた中日ナインは笑っていましたが、高橋は『三冠王だから(バットに)当たったのかな』と首を傾げていました」(前出・同)

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