「SNSでの誹謗中傷」と「昭和のヤジ」は大違い…金村義明氏が明かす「球場で個人情報を暴露されてもシャレで済んだ」根本的な理由
ヤジの中心地は関西
ヤジが許されていた時期が長かったため、今でも選手に対する誹謗中傷の議論になると、「誹謗中傷」と「ヤジ」の線引きを巡って混乱が生じることもあるようだ。
では、改めて“原点”を確認してみよう。昭和のプロ野球におけるヤジがどのようなものだったのか、積極的に発言してきたのが野球評論家の金村義明氏だ。
金村氏は1963年生まれの60歳。81年の夏の甲子園では、報徳学園の“エースで4番”としてチームを優勝に導く。その年のドラフトで近鉄から1位指名されプロ入りした。
後で詳述するが、プロ野球でヤジ文化が定着していたのは関西、それもパ・リーグが中心だった。
金村氏はヤジが日常的に飛び交う近鉄でプレーし、さらに95年にはフリーエージェント権を行使して中日に移籍し、97年にはトレードで西武に移った。つまりセ・リーグのことも、関東のパ・リーグについても豊富な経験と知識を持っている。
「売れる前の明石家さんまさんは『ヤジが面白いから』という理由で、南海の本拠地、大阪球場に通っていたそうです。基本的にヤジは関西のパ・リーグが中心で、近鉄、阪急、南海のファンが競いあうようにヤジを飛ばしていました。関西という土地柄、ヤジは何よりウケることが重視され、選手へのヤジを介して周りのお客さんを笑わせることが目的でした。ですから基本は“シャレになる”ヤジが大半で、今の誹謗中傷のように『死ね』といった悪質な罵詈雑言とは無縁だったのです」(金村氏)
個人情報を暴露するヤジ
念のために解説しておくと、阪急と近鉄は現在のオリックス・バファローズ、南海は福岡ソフトバンクホークスにあたる。近鉄、阪急、南海の3球団はいずれも親会社が私鉄で、これがヤジのネタになっていたという。
「3球団には、いわゆる“ヤジ将軍”みたいな名物ファンがいました。私鉄系3球団のうち2球団が対戦すると、相手チームの悪口を電車に引っかけます。例えば南海のファンが『近鉄はボロ電車ばっかりや』とヤジれば、近鉄のファンは『南海は各駅停車しかないで』とヤジり返すわけです。八百屋さんや魚屋さんの店主のようにダミ声で、非常に声が通る人っているじゃないですか。あんな声で相手チームをからかうと、周りのお客さんが笑うというのが普通の光景でした」(同・金村氏)
金村氏がテレビ番組で紹介し、共演者や視聴者を爆笑させたヤジに「個人情報を暴露する」というものがある。試合中にいきなり、「金村、昨日レディースマンションで何しとったんや!」、「男のお前が何でレディースマンションから出てくるんや!」とヤジられるわけだ。
謎の調査能力で、多くの近鉄選手がターゲットにされたという。中には「昨日、クーラー買うたやろ。野球選手がクーラーを月賦で買うな」とからかわれた選手もいた。選手がクーラーを買ったことも、分割払いを申し込んだことも事実だったという。
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