「運転席からライフルのスコープをのぞき…」OSO18を射殺したハンターが語る“闘い” 猟友会支部長は「内地の人は“共存共栄”と言うけれど」【スクープその後】
昨年は日本全国各地でクマによる人身被害が発生。さらに今年に入っても、北海道東部で牛がヒグマに襲われる被害が出るなど、緊張が高まっている。クマによる被害は人間にとって脅威である一方、巨大ヒグマ・OSO18が射殺された際にはハンターに対して批判の声が起こっており、今後も人間とクマの関わり方は議論されるべきだろう。そこで、今回はOSO18を射殺したハンターが語った“闘い”の詳細について改めて振り返りたい。
(以下、「週刊新潮」2023年9月7日号をもとに加筆・修正しました。日付や年齢、肩書などは当時のまま)
【閲覧注意】「ロースの部分だけ食べられた」 OSO18に襲われアバラがあらわになった乳牛
道民の恐怖を駆り立ててきた最凶ヒグマは、2019年7月に目撃されて以来、もっぱら乳牛を獲物として30頭以上の命を奪ってきた。釧路湿原を擁する標茶(しべちゃ)町やカキの産地で知られる厚岸(あっけし)町など、道東地区の酪農に甚大な被害を及ぼしてきたのである。
OSO18の由来は、最初に目撃された標茶町の地名「オソツベツ」と、18センチという前足の幅にちなむ。捕獲しようにも日中は姿を見せず、夜間の発砲を禁じる鳥獣保護法をあざ笑うかのように深夜の“犯行”を繰り返してきた。痕跡を残すまいと河原や道路を避け、川の中を歩くかと思えば橋の下を迂回(うかい)するなど「知性」も人間顔負け。地元のハンターたちは散々手を焼いてきたのだった。
内地の人が口にする“共存共栄”という奇麗事では…
そんな怪物は、思わぬ場所に現われていた。
ことは7月30日に遡る。早朝5時ごろ、標茶町から40キロほど南に位置する釧路町の放牧地で1頭のヒグマが駆除された。体長210センチ、体重は300キロ余り。これが道立総合研究機構のDNA調査により、8月18日にOSO18だと判明する。ちなみに前足の幅は20センチだったという。
長く“忍者”を追い続けてきた北海道猟友会標茶支部の後藤勲・支部長(79)は、
「なぜ標茶から南下したのかは分かりませんが、これで肩の荷が下りました。最期はあっけなかったですね」
そう漏らす。今回、大殊勲を立てたのは、釧路町役場農林水産課に勤務する40代の男性職員。有害鳥獣駆除の許可を受けたハンターでもあり、後藤支部長もよく知る人物だという。
「実は彼は標茶町の出身で、子どもの頃から知っています。数年前に狩猟免許を取得し、主に鹿の駆除にあたっていました。熊を撃ったのは今回が初めてだったと聞いています」
が、この男性はこれまで一切の取材に応じてこなかった。というのも、
「役場には『なぜ殺したんだ』といった非難めいた電話が多くあり、辛い思いをしているのです。山にいるならともかく、町へ出てきて乳牛を襲うなど、農家を苦しめる熊は駆除しなければなりません。内地の人たちが口にする“共存共栄”という綺麗事では済まされない、切実な問題です。筋違いの批判を受け、彼も堂々と『自分が撃った』とは言えずに悩んでいました」
そのさなか、
「私のところに相談にやって来たので、『大きな実害をもたらした熊を駆除して中傷されるなんておかしな話。ハンターとしての立場を世にきちんと伝えるべきだ』と諭したのです。それでも彼は、しばらく考えこんでいましたね」
運転席からライフルのスコープをのぞき込み…
そうした逡巡を経て男性は、本誌(「週刊新潮」)に初めて駆除の一部始終を明かした。以下は本人の弁である。
「職場では普段から『鹿が出た』という農家の通報を受けてパトロールを行っています。OSOを撃った前日の29日も『熊がいる』との連絡を受け、駆け付けると牧草畑に親子の熊がいて、すぐに逃げてしまいました。それで翌朝も一人で見回っていたら、現場に黒い物体が見えました。近寄ると1匹の熊が伏せており、私が近づいても起き上がろうとしなかったのです」
車中からの射撃は路上では禁じられているが、牧草地では法律上も問題なく、
「熊の頭を撃っても弾かれることがあると聞いていたので、運転席からレミントン(ライフル)のスコープをのぞき込み、まず首に1発撃ちました。距離はおよそ80メートルでしたが、相手は逃げもせずに首を横に振っていた。そこで20メートルくらいまで近づき、頭に照準を合わせて2発目、そしてトメ(とどめ)で3発目を撃ったのです。いずれも命中し、死んだのを確かめると、頬に真新しい爪痕が4本ほどあり、片方の耳がちぎれていた。きっと前日の親子熊と出くわして、メスグマとけんかしたのだろうと思いました」
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