大活躍! 広島「矢野雅哉」と日本ハム「田宮裕涼」 ドラフト下位指名だった二人がアマ時代に見せていた“素質の片鱗”

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ドラフトの順位以上の能力

 そして、2人目は、日本ハムの田宮裕涼だ。2018年にドラフト6位で入団。昨年までの5年間で、一軍の通算安打はわずか13本だった。しかし、昨シーズン終盤に、たびたび見事なスローイングを見せたことで、にわかに注目を集めると、今年は開幕から正捕手に定着。7月以降は少し調子を落としているものの、3割近い打率を残し、パ・リーグ2位となる盗塁阻止率もマークしているのだ(8月20日現在)。
 
 田宮は、千葉の強豪である成田高の出身。下級生の頃からレギュラーを任されるなど、県内では名前の知られる選手だった。3年夏の千葉大会では決勝で木更津総合に敗れて甲子園出場は逃したものの、6試合で5割を超える打率も残している。

 筆者は、高校時代の田宮を合計4度現場で見た。素早いスローイングとミート力のある打撃は、常に目を引くものがあり、ドラフト6位で指名された際は、正直に言って「順位が低い」と感じた。
 
 その理由のひとつは、同じ関東地区で関東第一の捕手、石橋康太(2018年中日4位)がいたことが挙げられる。

 中学時代に田宮は「佐倉リトルシニア」、石橋は「千葉市リトルシニア」というともに千葉県内の強豪チームでプレーしており、揃って名前を知られる存在だった。しかし、体格やプレーの力強さは、石橋が上回っており、田宮は攻守ともに見劣りしていた。ある球団のスカウトはこう話す。

「同じ地区に同じポジションの選手がいれば、当然、比較されやすいですよね。高校時代の石橋と田宮だったら、明らかに石橋の方が上だったことは間違いありません。特に、高校生の場合は将来性を重視するので、体が大きい選手の方がどうしても目に留まりやすいです。体が大きい、強いことも一つの才能ですから」(セ・リーグ球団スカウト)

タイプが異なる複数の投手のボールを受ける技術力

 筆者は、高校時代の石橋を取材したが、高校生とは思えないほど立派な体格だった。一方の田宮は身長175cm。2018年のドラフトで指名された高校生捕手のなかで、最も背が低かった。

 しかしながら、筆者は、彼の潜在能力を高く感じていた試合があった。2年冬に行われた千葉県選抜チームと成田高との練習試合。田宮は、成田高ではなく、千葉県選抜チームのキャプテンとして出場した。

 普段はバッテリーを組んでいない3人の投手をリードした田宮。いずれの投手のボールも苦にせずに捕球して、相手打線を無失点に抑え込んだ。高校生キャッチャーが、プロ入り後に苦労するのは、タイプが異なる複数の投手のボールを受けることだ。田宮は、これを苦にしない高い能力を持っていた。

 一軍に定着するまで時間を要したが、二軍では1年目から73試合に出場し、入団直後から経験を積み重ねたことが、今年の飛躍につながったのではないだろうか。今年で24歳。これから脂が乗ってくる。

 ドラフト下位指名からプロの世界で這い上がる――。同じ立場の選手に勇気を与える矢野と田宮。日本球界を引っ張る選手に成長することを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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