「役作りは一生懸命やらない」と江口のりこが語る理由とは 「愛に乱暴」公開記念対談 吉田修一×江口のりこ
もっと意地悪でもいい
江口 今回の脚本では、吉田さんから「もっと自由にやってください」というリクエストがあったと聞きましたが、ご自身の作品を自由にしていいってどういうことですか? めちゃくちゃにしてもいいっていうわけじゃないですよね。
吉田 「悪人」(10年)の時は、李相日監督と一緒に僕も共同脚本で参加しました。その時に原作に縛られる辛さと、映画ならではの広がり方っていうのを教わりました。なので、核の部分がお互いつながってるなと感じる人であれば、もう自由にやってくださいってお願いしています。演じる方としては、脚本を読んでここはちょっと気合入れようと思う場面はありましたか?
江口 プレッシャーのかかるシーンはありました。今回の脚本で言うと、最後の会話の場面とか。監督と相談しながらあそこに向かってやるっていう目的地を決めて、脚本はそこに向かうための地図みたいなものだと思います。でも、監督って面白いですよね。大事なシーンの時ほど言わないんですよ。森ガキ監督もそのタイプでした。
吉田 風吹ジュンさんが監督のことを「映画に対して遊び心を忘れない『ガキ』そのもの」と表現されていました。
江口 私もそう思います。いい意味でもそうでない意味でも(笑)。森ガキさんは、現場のみんなが楽しくやれるようによく見てますし、すごく優しい方なのですが、もっと意地悪になってみてもいいんじゃないかって思ったりしました。
吉田 もっと意地悪でもいい、とは。
江口 監督って意地悪な人の方が面白いと思うんですよ。役者にお願いするのではなく、(上から目線で)「そんな芝居をして……」みたいな。私なんかは、首をつながれて、その中で芝居してる方が、自分が面白く映っている気がします。出来上がったものを見て、自分がラクしてるなって思うと、すごくがっかりする。そうじゃなくて、私がどっか行こうとしたら、グッとリードを引っ張ってくれるような緊張感があるといいな。
「居心地の悪さ」がかっこよさに
吉田 自分でご覧になって面白く映ってるって、どういう感じですか。
江口 うーん、居心地悪そうにしてるってことですかね。安心感の中で演技している時、現場では思った通りの芝居をやったはずなのに、完成したものを見ると……自分にしか分からないかもしれないけど、なんかつまらない。自分が「これでいい」と思ってるのが分かってしまう。でも、怖くてしょうがないっていう緊張感の中でやってる自分を見るのは、面白いですね。
吉田 Netflixで配信されている「ウィ・アー・ザ・ワールド」のレコーディングの舞台裏を追ったドキュメンタリーを観ると、ボブ・ディランがものすごく居心地悪そうなんですよ。周りから完全に浮いてる。一人だけずっとキョロキョロして……でも、名だたる人気アーティストの中で、一番かっこよく映っている。居心地の悪さってそういう効果があるのかもしれませんね。創作の現場って楽しければいいっていうわけじゃないという。
江口 仲良くするのが目的で集まっているわけじゃないですからね。やっぱりいい作品ができるのが一番だし、それぞれが緊張感を持っていい仕事していると、自然と仲良くなる。仲良くなるのが先だと、居心地の良さを作るだけになっちゃうからもったいないですよ。
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