「役作りは一生懸命やらない」と江口のりこが語る理由とは 「愛に乱暴」公開記念対談 吉田修一×江口のりこ
「自分以外の何者にもなれないもんって(笑)」
吉田 いろんなタイプの役者さんがいると思いますが、よく聞くのは、その人になりきる、その人を生きる、みたいな役者。それはそれで素晴らしいですが、江口さんにとってはせりふなんですね。何を喋るかって、人間そのものですから。演じる人間をせりふという言葉から取り込んでいるということですね。
江口 私は役を演じるけど、私はその人じゃないと思ってやっています。何者かになりたいけれども、自分以外の何者にもなれないもんって(笑)。だって、撮影が終わったら自分の家に帰るし、自分の布団で寝るし。でも、役になりきるとか、憑依することができたら、それはどんな感じなのか興味はあるんですよ。
吉田 妻夫木聡さんがそっちのタイプだと言っていました。『怒り』が映画化された時(16年)、撮影終わってすぐのタイミングで会ったのですが、まだ顔つきや話し方がその役のまんまだったんですよ。僕はびっくりしちゃって、妻夫木さん本人も「まだ役が抜けてないんですよー」って言っていたのに、2~3日後にまた会ったら、もう完全に別人で役が抜けてた(笑)。本当に目の色まで違うんですよ。
江口 いいな。どうしてんのかな、そういう人って。
「往年の名女優さんは江口さんタイプ」
吉田 京マチ子さんとか、いわゆる往年の名女優さんって江口さんタイプらしいですよ。セットに呼ばれるまで全然普通で、カメラが回って立ち上がった瞬間に役に入る。チェコの映画祭でも江口さんの演技が大絶賛だったそうですね。フランスの映画評で「エグチ・ノリコはキャラクターに威厳と神秘を与えた」と紹介されているのを読みました。
江口 うれしいな。
吉田 演じる人物について、好きだなとか嫌いだなとか感じたりすることはありますか。
江口 それはないです。もっとドライかもしれないですね。好きだろうが嫌いだろうがやらなきゃいけないし。
吉田 こういう役をやってみたい、というのは?
江口 楽器を演奏する役をやってみたいです。芝居だけじゃなく、何か別のことを練習してやりたい。でも、体を動かしたりするダンスとかは嫌です。マラソンとかは絶対にイヤ。
吉田 楽器は決まってるんですか。
江口 トランペットとかかっこいいですね。憧れがあります。
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