「役作りは一生懸命やらない」と江口のりこが語る理由とは 「愛に乱暴」公開記念対談 吉田修一×江口のりこ
「江口さんだけ、ちょっと家に合ってない」
吉田 もう暑かったですね。夕方前だったから少しは気温下がってたんですけど。それでも相当暑かった。小説は荻窪の辺りを想像して書いたのですが、撮影現場はもうちょっと人の匂いがする感じの場所でした。今回の映画がすごかったのは、物語の設定そのままの、実際に人が住んでいる家で撮影ができたことですよね。リアルな家を使って演技するっていうのはやっぱりいいものですか。
江口 いいですね、うそじゃないから。何十年と人が暮らしている家だから、お風呂場も洗面所も歳月を感じられる。匂いもするし。そういうのが、どうしたって他人の家っていう感じがしてすごくよかったです。
吉田 撮影を見学しながら気付いたのですが、江口さんだけ、あの家のサイズに合っていないんですよ。小泉孝太郎さんや義母役の風吹ジュンさんはなんか合っている感じがする。物理的にということではないのですが、江口さんだけ、ちょっと家に合っていない。そこが、この家の人じゃない雰囲気につながっていて面白かったです。だからこそ、家を壊そうとする行為に説得力が出たと思うんです。フレームの中からポーンと飛び出してくるような迫力があった。
「役作り、私はそんなに一生懸命やらない」
吉田 僕は小説を書き上げるまで桃子という主人公が何をするのか分からなかった。物語の結末を決めていたのではなくて、桃子の背後にセットしたカメラで彼女を見ている感じで、最後の最後まで、桃子が○○で××したり、△△を□□するとは思いませんでした(笑)。江口さんはいかがでしたか。
江口 桃子が分かる分からないっていうより、興味があるかないかっていうことの方が私にとっては大切でした。桃子は私とは全然違う人ですからね。そこが面白かったのですけど。
吉田 では、役作りはどうされたんですか?
江口 役作り、私はそんなに一生懸命やらないかもしれません。絶対にやることといえば、100パーセント、いや、それ以上にせりふをちゃんと頭に入れること。それだけでいいんじゃないかと思ってるぐらいです。せりふが入っていないと、現場で監督から指示されても何もできなくなってしまうし、芝居やってて楽しくないんですよ。でも、完璧に入ってれば、監督の言う通りに動くことができて、それがすごく楽しいんです。現場に入る前に衣装合わせっていうのがあって、スタッフみんなでこの人はこういうもの着てるよね、バッグはこういうもの持ってるよねって話し合いながらキャラクターを作るのですが、それを終えた後は、せりふさえちゃんと入れておけば、現場でどうにでもなると思っています。
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