このままでは日本の「アルゼンチン化」もあり得る…小林慶一郎・慶大教授が指摘する「金利のない世界」の甚大な副作用

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金利をめぐる二つのシナリオ

 近年では国による家計への支援も手厚くなっている。

「延長されているガソリン補助金や再開された電気代・ガス代への補助金など、国民や企業に対する補助金についての考えがかなり緩やかになっているように感じます。例えば、1990年代の金融危機の時、銀行に公的資金を投入することについて、最も反対したのが他ならぬ銀行でした。政府に干渉されるのを嫌がったからですが、半導体など特定の産業を国が支援するようになった今とは隔世の感があります」

 折しも永田町では岸田文雄総理が総裁選への不出馬を表明し、「世代交代」が叫ばれている。将来、低金利時代しか知らない若い政治家たちが政権の中枢を担った場合、何が起きるのか。

「二つのシナリオがあると思います」

 と小林氏が続ける。

「一つはこれから長期金利が上がり、国債の利払い費や残高が増加していくパターンです。すると今後、大きな財政出動があれば、その分、国債の信用リスクなどマーケットからの手痛いしっぺ返しを若い政治家が経験していくことになる。それとともに、政治家や官僚が財政規律を重視していくようになる“揺り戻し”が起きるのではないか、と思います。そうなれば、10年後、15年後、金利が正常化され、財政健全化を見通せるような状況にできる可能性がある」

 もう一つのシナリオは最悪のパターンだ。

「若い政治家の“財政出動をし続けても問題ない”というメンタリティが変わらなければ、日銀も利上げをしづらい状況が続くことになります。すると10年後、15年後もゼロ金利が続いているということもあり得る。成長率は鈍化し、財政規律は緩んだまま。日本経済は長期衰退の道を辿ることになります。財政赤字が拡大し、記録的なインフレ、通貨安を招いた“アルゼンチン化”とも言っていい。円安は止まらず、貧しい国になっていく可能性はあり得ます」

 9月に決まる新総理や今後、国を担う若手政治家のかじ取り次第で、将来の日本が途上国化していくことは十分にあり得るのである。

デイリー新潮編集部

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