「この棒振り野郎!」と罵られることも…現場は高齢者ばかりという「警備員」のリアル「トイレに行けないので膀胱炎率は高い」

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届け出ないといけない「制服」

 なぜここまで厳しいかといえば、やはり業務上「人や物を守(護)る仕事」であるがゆえだろう。

 そういう意味では、もう一つ厳しく管理されるのが「制服」だ。第3者の手にわたり悪用されてしまわぬよう、警備員と一般人、警察官との差を明確にする必要がある。

 実は警備員の制服(警備服)は、他のブルーカラー職種のように会社が勝手に決めたり市販の作業服を気軽に作業員へ支給すればいいものではない。警備会社が以下のような内容についてどのようなデザイン・色なのか「服装届出書」に記載し、公安委員会に提出・承認を得る必要があると、こちらも「警備業法」に記されているのだ。

・頭(帽子、ヘルメット)
・上衣(シャツ、ジャケット、防寒コート、空調服、ネクタイなど)
・下衣(ズボン、スカート、防寒ズボンなど)
・標章ワッペン(胸部、上腕部)
・標章ワッペン原寸大の面積図
・服装の着用写真
・その他(警備に必要な小物など)

 一つ一つの記載内容も非常に細かく、例えば上衣では、それぞれのポケットの位置やボタンの数まで報告しなければならない。こうした細かなたくさんのルールに対して、現場の警備業経営者からはこんな声もある。

「警備業法は昭和47年にできた法律。何度か改正はされているものの、時代に合っていないと感じます。反社会勢力の警備員が多く存在した当時は、警備員による犯罪が頻発していたうえ、統一した誘導などがなく分かりづらかった。つまり同法は、警備員に相応しくない者の排除や、統一基準による運営が目的だったんです」

 また、警備服の価格の高さも足かせになるという。

「例えば、盛夏シャツですと2万円。新しいデザインの制服を作り認定されると、古い制服はもう使えません。もちろん制服は必要ですが、ワッペンなどの細かい規定や届出、認可まで必要なのかと思うことも。会社の宣伝も兼ねて背中辺りに社名を入れたデザインにすればいいと思う」

安すぎる給料

 他のブルーカラー職種の状況に違わず、現在、警備業界でも「人手不足」と「低賃金」が深刻化している――こう書くと「人手不足で売り手市場ならば、給料は上がるのでは」と聞かれることがよくあるのだが、ブルーカラーの多くの現場では、「ただ単純に人が足りていない」のではなく「低賃金で働いてくれる人手」が足りていない状況にある。

 つまり発注者側が工賃を上げ、雇用者が給料を上げない限り、人手不足は絶対になくならないのだ。

「交通警備員の単価は安すぎます。家族なんて養える状況にない。これは、発注元である国や地方公共団体の単価設定に問題があると思います」

 総務省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、「きまって支給する現金給与額」は27万9800円。しかもこれは従業員が10人以上の1~4号の警備業務を担う企業を合わせた平均額だ。

 3、4号警備についてはまた回を改めて仕事内容を紹介するとして、本稿ではこれ以降、「施設の警備」や「雑踏・交通誘導の警備」に該当する1、2号警備の現場を紹介していく。そのなかでも特に、工事やイベントに立つ警備員たちは、天候によって仕事が潰れることがあるため、給料が安定しない。今回の1、2号警備経験者への取材では、年収は300万円前後と答える人が多かった。

「給料はほぼ最低賃金。世間では月払いが一般的ですが、私のいた会社では週払い。それくらい金がない人が多かった」

「警備業界は給料の支払いが週払いのところが多いのも特徴。それに慣れてしまうと金欠状態から抜け出すのが難しくなります」

「年度末が近づくと、発注先の国や自治体が予算消化のため工事を増やす傾向があり、警備の仕事も同時に11月から3月頃は繁忙期に。一方で、新年度が始まる4、5月はまだ予算が決まっていないため、閑古鳥が鳴き続ける。給料は日給制。この時期は本当に生活できない」

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